2024.09.30

消費者庁「No.1表示に関する実態調査報告書」から読み解く「顧客満足度No.1」、「医師の○%が推奨」等の表示の取締り指針

のぞみ総合法律事務所
弁護士 山田 瞳

 

1 はじめに

 消費者庁は、2024926日、「No.1表示に関する実態調査報告書」(以下「本件報告書」という。)を公表した。
 No.1表示とは、一般消費者に商品・サービス(以下「商品等」という。)を提供する事業者が、広告等で、他の競業他社との比較において商品等の内容の優良性(品質の良さ)又は取引条件の有利性(お得さ)を訴求するために「売上No.1」、「安さ第1位」等と強調して示す表示をいい、商品等の売上実績、効果・性能、顧客満足度等の各種指標についてなされる。
 本件報告書は、2023年度に景品表示法に基づき消費者庁が下した措置命令(行政処分)44件中、No.1表示を含む不当表示に対するものが13件に上った[1]ことを受け、同庁が、No.1表示に関する実態調査(以下「実態調査」という。)を行った上で、問題となるNo.1表示の考え方を示すことを目的として作成したものである[2]
 本件報告書は、大要、⑴実態調査の目的、⑵実態調査の概要、⑶No.1表示に係る具体的な表示についての景品表示法上の当局の考え方、⑷不当なNo.1 表示等の防止策から構成される。実態調査におけるアンケート等のプロセスの適正性等は別途検証する必要があるものの、本稿では、この点は措いて、当局が今後いかなるNo.1表示を不当表示として取り締まっていくのかについての指針を示した部分であって、事業者の最大の関心事である⑶について、速報として解説する。

2 本件報告書の位置付け

 本件報告書では、
No.1表示の中でも、近時多く見られ、また、2023年度の13件の措置命令の対象表示中でも大半を占めた、例えば、「顧客満足度」、「口コミ人気度」等、第三者の主観的評価を指標としたNo.1表示(以下「主観的評価によるNo.1表示」という。)と、
No.1を謳うものではないものの、例えば、「医師の○%が推奨しています。」、「専門家の○%が信頼できると回答」等、専門家等の第三者の好(高)評価を指標とした表示であって、商品等についての第三者の主観的評価を訴求する点で、①の主観的評価によるNo.1表示と同じ機能を有するもの(以下「高評価%表示」という。)
の2種のNo.1表示を主眼として、当局の考え方が述べられている。
 これまでに、No.1表示については、2008613日に公正取引委員会事務総局が公表した「No.1表示に関する実態調査報告書」(以下「公取報告書」という。)が、一般的なNo.1表示に関する景品表示法上の考え方を示してきており、当局の取締りの指針を読み解く拠り所とされてきた。
 本件報告書は、公取報告書が示したNo.1表示に関する一般的な考え方を基本的には維持しつつ、近時の表示のトレンドとして多く見られる①主観的評価によるNo.1表示と②高評価%表示に特有な景品表示法上の考え方を示したものといえる。 

3 ①主観的評価によるNo.1表示、②高評価%表示が一般消費者に与える印象

 一般に、No.1表示は、商品等の内容の優良性又は取引条件の有利性を示していながら、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合であって、実際のもの又は競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるときには、不当表示として景品表示法上問題となる。
 よって、不当表示に当たらないために、No.1表示は、合理的な根拠に基づいて行う必要があるが、この時に根拠による立証の命題となるのは、事業者が広告上で現に行う文言、イラスト等といった個別具体的な表示そのものではなく、これらの文言、イラスト等の表示内容全てを基礎としたときにその表示が一般消費者に与える印象である。
 本件報告書では、①主観的評価によるNo.1表示、②高評価%表示の各表示例が一般消費者に与える印象について、実態調査に則り、次の旨の当局の考えが示されている。

【表Ⅰ】

 

分類

具体的な表示例

表示が一般消費者に与える印象
(=根拠による立証命題)

1

「顧客満足度No1」

特段の事情がない限り、「実際に対象商品等を利用したことがある者を対象に調査をした結果、第1位であった」という印象を与える[3]

2

「利用したい○○サービスNo.1」、「コスパが良いと思う■■商品No.1」

表示の内容によっては、「実際の利用者に調査をした結果、第1位であった」という印象を与える。

3

「20 代顧客満足度No.1」

実際の利用者のうち20 代の顧客に調査をした」という印象を与える。

4

「▲▲(保険商品)、顧客満足度No.1」

実際の利用者のうちでも保険適用を受けたことのある者に調査をした」という印象を与える。

∵商品等の特性等から、実際の利用者(契約者)のうち一定の範囲の者でなければ適切な評価を行うことができないと考えられるため。

5

「医師の90%が推奨」

専門家である医師からの好意的な評価を多数(○%も)獲得している商品等である」、「調査対象者である医師が、対象商品等の品質・内容(例えば、効果効能等)に関する客観的なデータを踏まえ、専門的な知見に基づく判断として「推奨」している」という印象を与える。

6

「~~に悩む方の90%が支持する」

自身と同じ悩みを有している者や同様の境遇にある者の多くが好意的な評価をしている商品等である」という印象を与える。

 

4 ①主観的評価によるNo.1表示、②高評価%表示が、合理的根拠に基づいた表示といえるためには

 不当表示に当たらないために、表示は合理的な根拠に基づいて行う必要があるが、前記のとおり、実務上、このことは、表示が一般消費者に与える印象に対応した実際があることが合理的根拠によって裏付けられているかによって判断される。例えば、【表Ⅰ】の1の表示でいえば、これが一般消費者に与える「実際に対象商品等を利用したことがある者を対象に調査をした結果、第1位であった」との印象に対応した実際があることが、合理的根拠(調査結果)によって裏付けられなければならない。
 この点、公取報告書は、一般論として、No.1表示が合理的な根拠に基づくといえるためには、
(1)根拠とされる調査が、関連する学術界若しくは産業界において一般的に認められた方法若しくは関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること、又は、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること【調査の客観性】、
(2)表示内容が(1)の調査結果と適切に対応していること【表示と調査の適切な対応】
の2つを満たす必要があるとしてきた。
 本件報告書では、①主観的評価によるNo.1表示、②高評価%表示について、⑴の【調査の客観性】の点を深掘りし、これを満たすためには
 ㋐ 比較する商品等が適切に選定されていること
 ㋑ 調査対象者が適切に選定されていること
 ㋒ 調査が公平な方法で実施されていること
が全て充足される必要があると示している。

 本件報告書で示された㋐ないし㋒についての当局の考え方は、大要、次のとおりである。

【表Ⅱ】

 

基本的な考え方

要件を充足しないと考えられる
調査の例

㋐比較する商品等の選定の適切さ

少なくとも比較対象となるべき同種又は類似の商品等(以下、単に「同種商品等」という。)を適切に選定した上で、これらと比較した場合の順位を調査する必要がある。

「○○サービス 満足度No.1」等と表示する場合において、○○に属する同種商品等のうち市場における主要なものの一部又は全部を比較対象に含めずに行う調査。

㋑調査対象者の選定の適切さ

【恣意性の排除】
少なくとも、調査対象者は、無作為に抽出された者である必要がある。

自社の商品等を継続的に購入している顧客だけを調査対象者に選定する場合。
調査対象者として自社の社員や関係者を選定する場合。

【調査対象者の属性】
当該表示が、特定の属性を有する者に調査したかのような印象を与える場合(前記【表Ⅰ】の各表示の場合)には、実際の調査においても当該特定の属性を有する者を対象としている必要がある。

特定の属性を有する者に調査したかのような印象を与える表示をしていながら、実際の調査の対象者に当該属性を有する者が含まれない場合。
例えば、【表Ⅰ】の1の①「顧客満足度No.1」の表示をしながら、対象商品等を利用したことがない者を調査対象者とする場合。利用経験の有無を確認することなく調査対象者を選定している場合
例えば、【表Ⅰ】の5の②「医師の90%が推奨する」との表示をしながら、調査回答者が医師であることを客観的に担保できていない場合。調査対象者である医師の専門分野が、対象商品等を評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない場合。調査対象者である医師が、回答に際し、調査会社等から、対象商品等の品質・内容について合理的な根拠がない情報の提供を受けている場合。

㋒調査方法の公平さ

調査者による恣意性や、調査対象者のバイアスを排除する必要がある。

自社に有利になるよう回答を誘導する場合。例えば、複数の商品等の中から「おすすめしたい」商品等を選択して回答させる場合に、自社の商品等を、選択肢の最上位に固定する等して、選択されやすくする場合。
自社の商品等が1位になるまで調査を繰り返す、1位になったタイミングで調査を終了するなど、結論ありきの調査が行われている場合。

 

5 最後に

 本件報告書は、「今回の調査結果も踏まえ、不当なNo.1 表示等が疑われる事案に対しては、迅速に指導を行い是正を図ることを含め、引き続き、景品表示法に基づき厳正に対処していく」と結んでおり、今後も当局によるNo.1表示に対する積極的な取締りが続くことが見込まれる。
 本件報告書で、実態調査に基づき、①主観的評価によるNo.1表示、②高評価%表示の各表示例が一般消費者に与える印象(前記【表Ⅰ】)と、これらの合理的根拠資料(前記【表Ⅱ】)について、それぞれ当局の具体的な考え方が一定程度示されたことには、これらについての事業者の正しい理解を深め、事業者自ら、これらの考え方に基づいて自身の行うNo.1表示を点検し、是正することができる点で大きな意義がある。
 もっとも、前記「2 本件報告書の位置付け」に記載のとおり、本件報告書は、①主観的評価によるNo.1表示、②高評価%表示に特有の論点についての考え方を述べたにすぎず、これら以外のNo.1表示を取り締まらないことを意味するものではないから、事業者は、引き続き、公取報告書に示されたNo.1表示の基本的な考え方にも準拠しつつ、①②の表示に限定することなく、幅広にNo.1表示への備えを行う必要がある。


 

[1] これらの13件の事案及び行政処分(措置命令)の要旨は、「令和5年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」の別紙112頁以降)で一覧できる。また、同年度には、特定商取引法の通信販売規制によってNo.1表示を行っていた販売事業者が行政処分となった事案も1件認められた(「特定商取引法の通信販売分野における執行状況について」)。

[2] 消費者庁長官の2024年3月31日の記者会見における発言より。

[3] 本件報告書では、No.1表示とあわせて、注記等で「サイトイメージ調査」、「本調査はサイトのイメージをもとにアンケートを実施しています。」、「利用有無は聴取していません」といった、実際の利用者を調査対象としたものではないことを示す注記(いわゆる打消し表示)があったとしても、ここで認定する表示が与える印象に影響を与えない(有効な打消し表示として認めない)旨が記載されている。

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