2024.10.17
【公益通報者保護法改正の論点~消費者庁検討会中間論点整理を踏まえて~第1回】
のぞみ総合法律事務所
弁護士 川西 拓人
現在、消費者庁で、公益通報者保護法改正を見据えた「公益通報者保護制度検討会」が開催されています。
令和2年公益通報者保護法改正法(令和4年6月1日施行)の附則第5条で、施行後3年を目途として、不利益な取扱いの是正に関する措置の在り方や裁判手続における請求の取扱い等の検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずることとされていることから、令和2年改正で積み残しとなった論点に加え、改正法施行後の公益通報者保護制度の状況等を踏まえ、法改正を見据えた検討が行われているものです。
本検討会は、令和6年5月から本原稿執筆時(2024年10月14日)までに5回開催され、多岐にわたる論点が議論されていますが、令和6年9月2日には中間論点整理(「公益通報者保護制度検討会 中間論点整理」、以下「本中間論点整理」といいます。)が示されています。
本中間論点整理において、公益通報者保護法改正の個別論点や検討の方向性が一定明らかとなりましたので、本稿では、中間論点整理後の議論も適宜加えながら、その概要とポイントを解説します。
1 中間論点整理で示された個別論点
本中間論点整理で示された個別論点は以下のとおりで、大項目で4つ、小項目で14個に及びます。
2 事業者における体制整備の徹底と実効性の向上
論点大項目の1つ目として「事業者における体制整備の徹底と実効性の向上」があります。当該論点の小項目としては「(1)従事者指定義務の違反事業者への対応」「(2)体制整備の実効性向上のための対応」「(3)体制整備義務の対象となる事業者の範囲拡大」の3つが挙げられます。
公益通報者保護法は、事業者(常時使用労働者数300人以下の事業者については努力義務)に従事者指定義務を課しているところ、当該義務の履行徹底のため、行政に対し、現行法の報告徴取、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の公表等の権限に加えて、命令権や立入検査権を規定し、なお是正されない場合、刑事罰を科すべきではないか、との論点が示されています。
この論点については、従事者指定義務は、事業者の体制整備の中核的役割を果たす重要なものとして法律に明記されていながら、消費者庁による民間事業者に対する実態調査[1]で、非上場の義務対象事業者において、義務を認識しながら履行していないと解される回答が11%を占めており、また、従事者個人の守秘義務違反には刑事罰が科される一方、事業者の従事者指定義務違反に罰則がないこと等が不均衡であるとの問題意識から、行政措置権限の強化を支持する意見が多いとされています。
また、当該論点については、以下のような意見も付記されています。
- 罰則規定の副次的効果として、従事者指定義務違反が、公益通報者保護法の通報対象事実となることで、法執行の実効性向上が期待できる。
- 事業者に対する罰則規定を設けることで不祥事発生・不利益取扱い防止するのみならず、事業者の自主的取組みを後押しすることができる。
- 自浄機能を高める努力を行っている事業者の自主的な取組みを後押しする、あるいは、 自浄機能が十分ではない事業者の体制整備を支援する発想が必要である。
(2)体制整備の実効性向上のための対応
事業者の労働者等及び役員・退職者に対する公益通報者保護法及び体制の教育・周知については、現在も体制整備義務の一部として法定指針に規定されています。
しかし、消費者庁の民間事業者に対する実態調査や就労者に対するアンケート[2]等で、内部通報制度や体制に関する周知が徹底されていない実態が認められたほか、近時公表された企業不祥事に関する第三者委員会等の報告書でも、事業者による周知の不徹底が、内部通報制度が機能しない一因になっている状況が見受けられました[3]。
かかる状況を踏まえ、本中間論点整理では、事業者から従業員に対し「通報先に応じた保護要件」、「公益通報を理由とする不利益取扱いの禁止」、「事業者の体制整備義務」、「従事者の守秘義務」等の法の概要を周知することを、法律上の義務として規定し、徹底させる必要があるのではないか、との論点が示されています。
当該論点については、中間論点整理公表後の第5回検討会(2024年10月2日開催)で、周知義務の具体的内容に関する更なる論点として
- 「周知すべき事項の範囲」:事業者内部で公益通報として受け付ける事実、内部通報窓口の連絡先・連絡方法、従事者の守秘義務、従事者指定の範囲、不利益取扱い・通報者探索防止措置等を周知対象とすること
- 「周知方法」:ポスター掲示、書面交付、メール送付、ウェブサイト掲示等の周知の具体的方法について
- 「周知先」:現在の労働者、派遣労働者、役員に加えて、退職者、取引先労働者等、フリーランス、取引先におけるフリーランス等への周知義務を設けるか
- 「周知義務が導入された場合の消費者庁による支援」:消費者庁によるひな形作成等
が挙げられ、議論が進められています。
また、当該論点に関しては、EU指令に倣って、内部通報のフォローアップ手続を設け、通報者に適切な対応がとられていることを示し、心理的安全性を確保することが、実効性向上の観点で重要であるとの意見も示されています。
(3)体制整備義務の対象となる事業者の範囲拡大
消費者庁の実態調査において、従業員数300人以下の事業者のうち、内部通報制度を導入していない事業者の半数近くが、その理由について「努力義務にとどまるから」と回答していることを踏まえ、体制整備義務の対象事業者を、常時使用労働者数300人以下の事業者に拡大すべきではないか、との論点が挙げられています。
具体的には、次世代育成支援対策推進法で常時雇用労働者数101人以上の事業主に「一般事業主行動計画」の策定が義務付けられていることに倣い、体制整備義務の対象を、常時使用労働者数100 人超の事業者に広げることが考えられるとの提案がなされています。
この点については、
- 中小規模事業者が公益通報対応のノウハウを蓄積することは困難
- 特に小規模事業者の場合、守秘義務を遵守しても公益通報者の身元が明らかになる可能性があり、実効的な体制整備が現実的ではない
- 内部通報窓口の導入支援を行う民間サービス等も少なく、中小規模事業者の対応のハードルが高い
等の意見が示されています。
また、中小規模事業者の内部通報窓口の設置負担に鑑み、例えば、弁護士会などが主体となった通報窓口プラットフォームを整備することを検討してはどうかとの意見も示されています。
以 上
[1] 第1回検討会資料4-2
[2] 第1回検討資料4-1
[3] 第1回検討資料4-4