2024.10.22

【公益通報者保護法改正の論点~消費者庁検討会中間論点整理を踏まえて~第2回】

のぞみ総合法律事務所
弁護士 川西 拓人

 

 現在、消費者庁で、公益通報者保護法改正を見据えた「公益通報者保護制度検討会」が開催されています。
 本検討会は、令和6年5月から本原稿執筆時(令和6年10月19日)までに5回開催され、多岐にわたる論点が議論されていますが、令和6年9月2日には中間論点整理(「公益通報者保護制度検討会 中間論点整理」、以下「本中間論点整理」といいます。)が示されています。
 本中間論点整理において、公益通報者保護法改正の個別論点や検討の方向性が一定明らかとなりましたので、本稿では、第1回に続き、その概要とポイントを解説します。

1 公益通報を阻害する要因への対処

 論点大項目の2つ目として「公益通報を阻害する要因への対処」があります。当該論点の小項目としては「(1)公益通報者を探索する行為の禁止」「(2)公益通報を妨害する行為の禁止」「(3)公益通報のために必要な資料収集・持ち出し行為の免責」「(4)公益通報の刑事免責」「(5)濫用的通報者への対応」の5つが挙げられます。

 2 公益通報者を探索する行為の禁止

 通報者探索の防止は、体制整備義務の一部として現在も法定指針及び法定指針の解説に規定されていますが、本中間論点整理では、公益通報がなされた後、事業者内で公益通報者を特定することを目的とした調査が行われることは公益通報者にとって脅威であり、また、通報を検討する者を萎縮させるなどの悪影響があることから、法律上、通報者探索を禁止する明文規定を設けるべきとの意見があり、また、法律上明記するだけではなく、通報者を探索する行為に対し、行政措置又は刑事罰を規定すべきとの意見があった、とされています。
 近時、地方公共団体において、知事の不適切行為やパワハラ等を告発した職員について、告発文書の把握直後から告発者を特定する調査が行われたうえ、「核心的な部分が事実でない」等として懲戒処分がなされた事例が生じ、公益通報者保護法における通報者探索禁止の実効性についての課題が明らかとなっており、検討会でも、委員から「実際に公然と探索が行われるという事案が起きてしまっているので、明文規定ではっきり禁じることが必要」との見解が述べられるなど、本論点への対応についての社会的要請は高まっています。
 他方、次に述べる通報妨害の論点と同様、刑事罰、特に直罰の導入については「具体的な要件がイメージ喚起される段階にはない」「具体的な議論を進めるのは困難ではないかという印象」との意見もみられます。

3 公益通報を妨害する行為の禁止

 本中間論点整理では、労働者に公益通報しないことを約束させるなど公益通報を妨害する行為は本法の趣旨に大きく反する行為であること、また、諸外国では法律上、かかる行為が禁止され、通報を妨害する合意等を無効とする規定があることを挙げて、法令上、かかる行為を禁止する明文規定を設けるとともに、違反時の行政措置又は刑事罰を規定すべきとの意見がある、とされています。
 この点について、現行制度では3号通報の保護要件の1つとして「役務提供先から前2号に定める公益通報(注:1号通報及び2号通報)をしないことを正当な理由がなくて要求された場合」が規定されるに留まり、禁止規定までは設けられていません。
 本検討会資料においては、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツでかかる規定が設けられていることが示されているほか[1]、本中間論点整理では、韓国でも同種規定が設けられていることが言及されています。
 他方、検討会では、委員から「違反時の行政措置を設ける場合には、適正手続きの保障を徹底し、法執行の適正さと透明性を確保する必要」がある、「直罰規定を設ける場合、明確な構成要件を定義することが難しい」といった、手続面や構成要件の明確性の観点から慎重な意見も述べられており、今後の検討が待たれます。

4 公益通報のために必要な資料収集・持ち出し行為の免責

 本中間論点整理では、証拠資料がなければ、通報先に対し、公益通報者が見聞きした不正行為の存在を証明することができないところ、公益通報のために必要な資料収集・持ち出し行為が事業者による解雇や懲戒等の対象となるのかどうかが明確ではなく、公益通報を躊躇する要因になっている、公益通報のために必要で社会的相当性を逸脱しない限り、資料収集・持ち出し行為が免責されるよう法律上、規定を設けるべきとの意見があったことが示されています。
 また、公益通報に伴う資料収集・持ち出し行為につき刑事責任を問われる可能性があれば安心して公益通報ができないことから、民事免責のみならず、刑事免責についても法定する必要があるとの意見も記載されています。
 第4回検討会では、委員から、資料収集・持出し行為の免責の必要性を肯定しながら、特に刑事免責については「立法論となるとかなり難問」「そもそもいかなる構成要件に該当し得るのかも踏まえてさらに整理しなければならない」等の意見も示されました。
 第5回検討会資料[2]では、公益通報によって問題となる犯罪類型として、窃盗罪、横領罪、不正アクセス禁止法違反、建造物侵入罪、背任罪及び不正競争防止法上の営業秘密侵害罪、個人情報保護法違反が挙げられたうえ、「公益通報のために必要な資料収集・持出しとして具体的に想定される行為のうち、社会的相当性を逸脱しておらず、法律であらかじめ免責する必要がある犯罪類型はあるか。」との検討事項が示され、検討が進められています。

5 公益通報の刑事免責

 中間論点整理では、「現行法では、通報行為の民事免責は規定されているものの、刑事免責が規定されておらず、公益通報を行ったことについて、あらゆる責任が免除されるのか予測可能性に欠けている。このため、刑事免責の明文化を検討してはどうか」との意見が記載されると共に、「具体的には、関係する刑罰として、刑法の秘密漏示罪、名誉毀損罪、信用毀損罪の他、特別法の守秘義務違反時の罰則等があり、これらの構成要件との関係を整理する必要があるとの提案があった」とされています。
 本論点については、委員からも刑事免責規定を設けること自体には肯定的な見解が多いものの、波及効果を踏まえた検討が必要、との意見も出されています。
 第5回検討会資料[3]では、公益通報と秘密漏示罪その他の守秘義務違反、名誉毀損罪、信用毀損罪・偽計業務妨害罪、背任罪、個人情報保護法違反の構成要件との関係が整理され、当該「犯罪類型のうち、公益通報のために法律で免責を規定すべきものはあるか」が検討事項とされています。

6 濫用的通報者への対応

 中間論点整理では、日本の大企業の内部通報窓口には、公益通報には該当しない通報が多数なされており、従事者の負担が非常に大きく、重要な内部通報が見逃されないようにする必要があること、また、EU 指令(第23 条)には、通報者が故意に虚偽の通報を行った際の罰則が規定されていることを踏まえ、濫用的通報や虚偽通報に対し、罰則を設けるべきとの意見があった、と記載されています。
 中間論点整理では、上記意見について、悪性の強さが明らかで、公益通報者保護制度を害するような行為を明確に処罰対象とすることは、制度の健全性を保つ上でメリットになる一方、新設した罰則の存在自体によって、公益通報をしようとする労働者が萎縮するというデメリットが生じるということもあり得、メリットとデメリットの両方について今後更に検討する必要があるとの提案があったこと、また、刑法には、虚偽告訴罪、名誉毀損罪及び偽計業務妨害罪があることから、これらの犯罪規定との関係を整理する必要があるとの提案もあったこと、も述べられています。
 第5回検討会資料[4]では、上記の整理を踏まえ「濫用的通報」として想定される行為類型として、①通報内容が虚偽であると知りながら行う通報、②既に是正され、解決した事案であることを知りながら、専ら自己の利益を実現するために行う通報、③軽微な事実を殊更誇張して繰り返し行う通報、④通報窓口担当者に対して威圧的な態度で行う通報、の4つが挙げられ、検討が進められています。

 

以上


[1] 第2回検討会資料8

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/assets/consumer_partnerships_cms205_240903_01.pdf

[2] 第5回検討会資料3-5

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/assets/consumer_partnerships_cms205_241001_09.pdf

[3] 第5回検討会資料3-6

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/assets/consumer_partnerships_cms205_241001_10.pdf

[4] 第5回検討資料3-7 

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/assets/consumer_partnerships_cms205_241001_11.pdf

 

 

 

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