2024.11.12

【公益通報者保護法改正の論点~消費者庁検討会中間論点整理を踏まえて~ 最終回 通報主体、通報対象事実、行政機関通報の保護要件等の見直し】

のぞみ総合法律事務所
弁護士 川西 拓人

 現在、消費者庁で、公益通報者保護法改正を見据えた「公益通報者保護制度検討会」が開催されています。
 本検討会は、令和6年5月から本原稿執筆時(2024年11月10日)までに6回開催され、多岐にわたる論点が議論されていますが、令和6年9月2日には中間論点整理(「公益通報者保護制度検討会 中間論点整理」、以下「本中間論点整理」といいます。)が示されています。
 本中間論点整理において、公益通報者保護法改正の個別論点や検討の方向性が一定明らかとなりましたので、本稿では最終回第4回として「通報主体、通報対象事実、保護要件等の見直し」につき、論点の概要とポイントを解説します。

1 通報主体、通報対象事実、行政機関通報の保護要件等の見直し 

 本中間論点整理の論点大項目の4つ目として「その他の論点」があります。具体的論点としては「(1)通報主体や保護される者の範囲拡大」「(2)通報対象事実の範囲の見直し」「(3)行政機関に対する公益通報(2号通報)の保護要件の緩和」の3つが挙げられます。

2 通報主体や保護される者の範囲拡大

(1)退職者について

 令和2年改正で、退職後1年以内の労働者と役員が、保護される通報主体に追加されました。この点について、本中間論点整理では、退職後1年以内の者と1年超の者を区別する合理的な理由はなく、海外法制も参考に、退職後の期間制限を撤廃すべきとの意見があったことが記載されています。

(2)取引先事業者・フリーランスについて

 現行法では、取引先の労働者等(ある事業者が委託元との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該事業に従事する労働者、派遣労働者又は退職者(退職後1年以内))は公益通報の主体とされているものの(法2条1項3号)、取引先事業者そのものやフリーランスは主体とされていません。
 近時、働き方の多様化が進展し、従業員のいない個人事業者や一人社長など、フリーランスが増えていること、大部分のフリーランスが特定の取引先と継続的な関係を持ち、経済的に依存する傾向に陥りやすいこと、特にフリーランスとしての事業が主たる生計の手段である場合、発注事業者から指示を受けてサービスを提供し、収入を依存する点で、その実質は使用者と労働者との関係に類似すること等から、本年11月より「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25 号)が施行され、フリーランスの保護が強化されています。
 本中間論点整理では、公益通報との関係においても、フリーランスは労働者と同様、事業に関連した不正を知り得る立場にあるが、労働者に準じる弱い立場にあることが多く、公益通報を理由とする契約の解除や取引の削減等の不利益取扱いを受ける懸念があること、また、EU 指令やオーストラリア会社法においては保護される通報者にフリーランスが含まれていることを踏まえ、日本においても、保護される通報者の範囲にフリーランスを含めるべきとの意見があった、と記載されています。
 また、下請事業者についても、元請事業者との関係で弱い立場に置かれていることから、保護される通報者の範囲に含めるべきとの意見があった、とも記載されています。

(3)その他

 本中間論点整理では、上記の他、

  • 親族や同僚、代理人を保護の対象とすること
  • 複数人が共同して公益通報が行われるなど、複数の共同通報者によって通報要件を満たす場合も全員が保護の対象となるよう、例えば公益通報者保護法第8条(解釈規定)や法定指針で明文化することが必要である

との意見があった、と記載されています。

3 通報対象事実の範囲の見直し

(1)通報対象事実の範囲

 現行法において、通報対象事実については、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護を直接的な目的とする法律の刑事罰・過料の対象行為や違反状態が最終的にこれらの罰則につながる行為に限定され、対象法律の規定方式は、別表及び政令で指定するポジティブリスト方式をとっています。
 本年11月1日現在、通報対象となる法律は502本に及んでいますが[1]、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護を直接的な目的とする法律」に限定されており、例えば、政治資金規正法、公職選挙法及び税法等の、国民生活に重要な影響を与えうる法律の違反行為は通報対象事実となっていません。
 かかる状況を受けて、本中間論点整理においては「様々な法律の規定において、その保護法益や目的は多種多様な場合があり、別表や政令に列挙されていない法律の規定ではあるものの、国民の利益擁護の観点から重要な規定は存在しており、法律の限定列挙によって労働者の保護が左右されることに不合理な面がある」とし、現在のポジティブリスト方式を改め、除外すべき法律があればこれを列挙するネガティブリスト方式を採用すべきとの意見があったことが記載されています。
 また、犯罪行為や過料の対象とされた違反行為の事実が、それ以外の法令違反の事実より常に重要であるとは言いがたいとし、通報対象事実について、刑事罰や過料による限定を外すべきとの意見も記載されています。

4 行政機関に対する公益通報(2号通報)の保護要件の緩和

 令和2年改正で、行政機関に対する公益通報については、「信ずるに足りる相当の理由」(真実相当性)がなくとも、通報対象事実が生じ、もしくはまさに生じようとしていると思料している場合には、氏名など、法律上の要件を満たす書面を提出すれば、公益通報として保護されるようになりました(法3条2号)。
 本中間論点整理では、行政機関に対する公益通報における更なる通報者の不安軽減のため、書面でする公益通報の保護要件について、氏名に代えてメールアドレス等の継続的に連絡が取り合える連絡先を記載した場合や、弁護士である代理人を選任した場合も同様に保護対象とすべきではないか、との意見がある旨が記載されています。

以上


[1] https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/subject/assets/consumer_partnerships_cms205_241101_01.pdf

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