2025.02.06

消費者庁検討会報告書を踏まえた公益通報者保護法改正の方向性 最終回(第3回) 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済、その他の論点

のぞみ総合法律事務所
弁護士 川西拓人

 消費者庁では、2024年5月より、公益通報者保護法改正を見据えた「公益通報者保護制度検討会」(以下「本検討会」といいます。)が開催され、同年12月、「公益通報者保護制度検討会報告書 -制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて-」(以下「本報告書」といいます。)[1]が公表されました。本報告書において、本検討会で示された論点に関する公益通報者保護法改正の方向性が明らかとなりました。
 本稿は、第3回として、「公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済」及び「その他の論点」について、その概要とポイントを解説します。

1 「公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済」及び「その他の論点」

 論点大項目の3つ目として「公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済」があり、当該論点の小項目としては「(1)不利益な取扱いの抑止」「(2)不利益な取扱いからの救済」「(3)不利益な取扱いの範囲の明確化」の3つがあります。
 また、論点大項目の4つ目として「その他の論点」があり、当該論点の小項目としては、「(1)通報主体や保護される者の範囲拡大」「(2)通報対象事実の範囲の見直し」「(3)行政機関に対する公益通報(2号通報)の保護要件の緩和」の3つがあります。

 2 不利益な取扱いの抑止

論点9
公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する刑事罰が必要ではないか。

(1)不利益な取扱いの抑止

 不利益な取扱いの抑止については、本報告書で、概要、以下の「対応」が示されました(下線は筆者による。以下、本稿において同じ。)。

    • 公益通報者保護制度に対する社会一般の信頼と公益通報をした個人の職業人生や生活の安定を保護法益として、禁止規定に違反した事業者及び個人に対して刑事罰を規定すべきである。
    • 構成要件の明確性及び当罰性の観点から、刑事罰の対象となる不利益な取扱いは、不利益であることが客観的に明確で、かつ、労働者の職業人生や雇用への影響の観点から不利益の程度が比較的大きく、事業者として慎重な判断が求められているものとして、労働者に対する解雇及び懲戒に限定することが考えられる
    • 不利益な取扱いのうち、解雇及び懲戒を除く、例えば、不利益な配置転換や嫌がらせ等を罰則対象とすることについては、構成要件の明確性及び当罰性の観点から、具体的に罰則対象となる不利益性の大きい行為の範囲や定義について更に検討することが必要
    • 公益通報をしたことを理由として、労働者に対する解雇及び懲戒が行われた場合、事業者の他、公益通報を理由として、又は公益通報が理由であることを知って、これらの措置の意思決定に関与した者は処罰対象となり得る。これに加え、当該意思決定に関する直接的な権限を有していなくても、意思決定に関与した者は、刑法の共犯規定により処罰対象となり得る。

 上記により、公益通報を理由とする不利益な取扱いには、法律上、刑事罰が設けられると考えられます。また、刑事罰の対象となる行為類型は、解雇及び懲戒処分に限定される見込みです。本検討会において活発な議論が行われた、不利益な配置転換や事実上の嫌がらせに対する刑事罰の導入については、今後も引き続き対応を検討すべき、と整理されました。
 公益通報を理由とする不利益な取扱いに関する刑事罰の処罰対象は、法人のみならず、意思決定に関与した役職員個人も含まれると予測されます。当該役職員が意思決定に関する権限を有しなくとも、事実上意思決定に関与すれば、共犯として処罰対象となり得る点にも留意を要します。

(2)間接罰か直罰か

 公益通報を理由とする不利益な取扱いへの刑事罰を、間接罰(命令制度を設けることを前提に、是正命令に違反した場合に刑事罰を科すもの)とするか直罰(事前抑止の観点から、是正されるかどうかを問わず、法律違反に対して刑事罰を科すもの)とするかについても議論され、以下の「対応」が示されました。

    • 公益通報を理由とする不利益な取扱いは、法の趣旨を損なう加害行為であり、仮に、そのような行為が放置されれば、事業者内やさらには社会全体において、不正を覚知した者が公益通報をすることに萎縮が生じる。このような悪質性の高さや社会的な影響の大きさを踏まえ、強い抑止力が求められていることから、行政命令を挟む間接罰ではなく、直罰方式が相当である。

 上記により、公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する刑事罰は、間接罰ではなく、直罰となると考えられます。

(3)法人重課について

 公益通報を理由とする不利益な取扱いへの刑事罰について、法人重課(法人に対する罰金の金額を個人に比して高額とすること)を採用するかが論点となり、以下の「対応」が示されました。

    • 法人に対する刑事罰については、自然人と比較した事業者の資力格差、不正発覚の遅れによって事業者が得る利益や社会的被害の大きさ、行為の悪質性・社会的な影響等を踏まえ、法人重課を採用すべきである。

 上記により、法人に対しては、個人よりも高額な罰金刑が定められると見込まれます。

3 不利益な取扱いからの救済

論点10
不利益な取扱いが公益通報を理由とすることの立証責任を事業者に転換し、公益通報者の立証責任を緩和すべきではないか。

 (1)公益通報者の立証責任の転換と対象範囲

 現行法下では、通報者が不利益な取扱いを受けた場合に保護を受けるためには、訴訟等で、当該不利益な取扱いが通報を理由とすることを自ら立証することが求められるところ、その立証が困難な場合があり、通報者に負担となっていることが指摘されていました。
 この点について、本報告書は、概要、以下の「対応」を示しました。

    • 我が国においては、労働訴訟実務上、労働者が解雇無効(労働契約法第16条)や懲戒無効(同法第15条)を主張する場合には、解雇・懲戒事由について、事実上、事業者に重い立証負担がある。このことや情報の偏在、公益性を踏まえれば、解雇や懲戒について、「公益通報を理由とすること」の立証責任を事業者に転換すべきである。
    • 不利益な配置転換や嫌がらせ等、解雇・懲戒以外の不利益な取扱いについては、立法事実を踏まえ、どのような場合に公益通報を理由とすることの立証責任の転換という例外的な措置を許容することができるか、より踏み込んだ検討が必要であり、我が国の労働関係法規における取扱いや雇用慣行、事業者の公益通報対応の実務、労働訴訟実務の変化も注視しつつ、立証責任の配分の在り方について、今後、引き続き検討すべきである。

 上記により、改正法において、解雇や懲戒処分については「公益通報を理由とすること」の立証責任が事業者に転換されると見込まれます。配置転換や事実上の嫌がらせ等についても、法の実効性確保の観点から立証責任転換を求める意見がありましたが、この点は、今後も引き続き検討されることとなりました。

(2)立証責任を転換する場合の期間制限

 本検討会では、時間の経過とともに、証拠が散逸して立証が困難になり、また、不利益な取扱いが公益通報とは別の理由による蓋然性が高くなることから、立証責任を事業者に転換する場合には、一定の時間的な区切りを設けることが適当であるとの意見がありました。
 この点について、本報告書は、以下の「対応」を示しました。

    • 我が国の労働関係法規において、立証責任を転換した規定例や、公益通報後、近接した時期に、解雇及び懲戒が公益通報者に対して行われた場合には、公益通報を理由とするものである蓋然性が高いことを踏まえ、公益通報をした日から1年以内の解雇及び懲戒に限定して、「公益通報を理由とすること」の立証責任を転換すべきである。
    • 2号通報及び3号通報については、事業者が公益通報があったことを知って、不利益な取扱いが行われた場合には、当該「知った日」を起算点とすべきである。
    • 立証責任を転換する場合の期間制限については、今後の立法事実の蓄積を踏まえて、必要に応じて、見直しを検討すべきである。

 上記により、改正法においては、公益通報をした日から1年以内の解雇及び懲戒に限定して「公益通報を理由とすること」の立証責任を転換する定めが設けられること、2号通報(行政機関への通報)や3号通報(マスコミ等外部機関への通報)については、労働者が公益通報をした日と、事業者が公益通報の存在を認識する日にタイムラグがあることを踏まえ、期間制限の起算点を、事業者が公益通報があったことを「知った日」とすることが定められると考えられます。

(3)その他

 本検討会では、公益通報者の救済手段として訴訟以外の手段(ADR等)の整備を求める意見、行政当局が関与して、生成AIを活用した公益通報該当性の判断の効率化等の公益通報者の支援を行うことを求める意見等が出されていました。
 この点について、本報告書は、以下の「対応」を示しました。

    • 公益通報の対象法律は約500本と多く、通報先ごとに保護要件が異なることにより、公益通報該当性や保護要件充足性の判断は容易ではなく、高い専門性が求められる場合もある。消費者庁においては、「公益通報者保護制度相談ダイヤル」を設置し、法の内容や解釈について、通報者及び事業者からの相談を電話で受け付けているが、生成AI等の情報技術の進展を注視しつつ、公益通報者を支援するための更なる取組みを検討すべきである。

 現状、消費者庁では通報者支援のため「公益通報者保護制度相談ダイヤル」を設置していますが、今後、生成AI等を用いた公益通報者支援の取組が検討されると考えられます。

4 不利益な取扱いの範囲の明確化

論点11
不利益な取扱いの具体例として、現行法上、解雇、降格、減給、退職金の不支給が明記されているが、配置転換についても明記すべきではないか。

 本検討会では、現行法では、法律の条文上、不利益な取扱いの具体例として解雇、降格、減給、退職金の不支給が明記されているものの、配置転換やハラスメントが明記されていないことを指摘する意見があり、この点について、本報告書は、以下の「対応」を示しました。

    • 我が国の法律において、禁止される不利益な取扱いとして配置転換やハラスメント等を例示した条文はなく、法律で例として明示するためには、それらの措置の定義や射程等について更に検討が必要である。まずは、配置転換やハラスメント等が禁止される不利益な取扱いに含まれうることについて、法定指針で明記することを検討すべきである。

 上記により、改正法の条文において、配置転換やハラスメントが不利益な取扱いの具体例として明記されるものではないものの、法定指針の文言として明記される方向性が示されたと考えられます。

5 通報主体や保護される者の範囲拡大

論点12
通報主体や保護される者の範囲を拡大すべきではないか。

 (1)取引先事業者・フリーランスについて

 本検討会では、現行法では、取引先の労働者等は公益通報の主体とされているものの(法2条1項3号)、取引先事業者そのものやフリーランスが主体とされておらず、保護される通報者の範囲にフリーランス及び下請事業者を含めるべき、との意見がありました。
 この点について、本報告書は、以下の「対応」を示しました。

    • 公益通報の主体に事業者と業務委託関係にあるフリーランス(法人成りしているフリーランスの場合はその役員である個人)及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスを追加し、フリーランスが法第3条第1項各号に定める保護要件を満たす公益通報をしたことを理由として、事業者が当該フリーランスに対して、業務委託契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額その他の不利益な取扱いを行うことを禁止すべきである。
    • ただし、フリーランスと業務委託事業者との関係は、取引関係であり、雇用関係ではないことから、公益通報をしたことを理由とする取引関係上の不利益な取扱いについて刑事罰を規定することの要否については、今後の立法事実を踏まえ、必要に応じて、検討すべきである。
    • 下請事業者など、自然人以外の法人の取引先公益通報の主体や保護対象とすることについては、今後、必要に応じて、検討すべきである。

 上記により、改正法において、フリーランス(現に業務委託関係がある場合及び業務委託関係が終了して1年以内の場合)が公益通報の主体に加えられること、フリーランスに関する不利益な取扱いの禁止として業務委託契約の解除、取引の数量の削減、取引の停止、報酬の減額等が定められることが予測されます。ただし、不利益な取扱いに関する刑事罰の規定については、今後、必要に応じて検討することとされています。
 また、フリーランス以外の法人の取引先を公益通報の主体や保護対象に加えることについても、今後、必要に応じて検討することとされています。

(2)公益通報者の家族等

 本検討会では、「公益通報者の親族や同僚、代理人を保護の対象とすること」「複数の共同通報者によって通報要件を満たす場合も全員が保護の対象となるよう、法令や法定指針で明文化すること」が必要との意見がありましたが、本報告書では、この点については以下の「対応」が示され、今後の検討課題となりました。

    • 公益通報者の親族、同僚、代理人、支援者を保護対象とすることについては、これらの者に対する不利益な取扱いの実態が明らかではないことから、その状況を注視し、今後、必要に応じて、検討すべきである。

(3)退職者について

 本検討会では、退職後の期間制限(1年)を撤廃すべきとの意見がありました。この点についても、本報告書では、以下の「対応」が示され、今後の検討課題となりました。

    • 退職後1年を超える元労働者等を公益通報の主体とすることについては、これらの者による通報の実施状況や通報をしたことを理由として受けた不利益な取扱いの実態が明らかではないことから、その状況を注視し、今後、必要に応じて、検討すべきである。

6 通報対象事実の範囲の見直し

論点13
通報対象事実を別表及び政令で指定するポジティブリスト方式を改め、除外すべき法律があればこれを列挙するネガティブリスト方式を採用すべきではないか。また、刑事罰や過料による限定を外すべきではないか。

 (1)通報対象事実の範囲

 現行法は、通報対象事実については、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護を直接的な目的とする法律の刑事罰・過料の対象行為や違反状態が最終的にこれらの罰則につながる行為に限定されており、対象法律の規定方式は、別表及び政令で指定するポジティブリスト方式をとっています。
 本検討会では、現在のポジティブリスト方式を改め、除外すべき法律があればこれを列挙するネガティブリスト方式を採用すべきとの意見や、通報対象事実について、刑事罰や過料による限定を外すべきとの意見も示されました。
 この点について、本報告書は以下の「対応」を示し、今後の検討課題と整理されました。

    • 直接の法目的による限定を外すことによって、公益通報と消費者の生活や利益との関連性が希薄となることの妥当性が問題となるため、このような限定を外すことについては、今後、必要に応じて、慎重に検討すべきである。
    • 法目的による限定を維持したまま、対象法律を列挙しないネガティブリスト方式を採用した場合には、対象となる法律が不明瞭となり、通報者及び事業者、行政機関にとって、公益通報該当性の判断が一層困難になるおそれがあること、また、刑事罰・過料による限定を外した場合には、通報件数の増加によって、事業者及び行政機関の対応負担が大幅に増加し、消費者の生活や利益にとって真に重要な法令違反に対する適切な対応が困難となるおそれがあることから、今後、必要に応じて、慎重に検討すべきである。

7 権限のある行政機関に対する公益通報(2号通報)の保護要件の緩和

論点14
行政機関に対して書面でする公益通報の保護要件について、氏名に代えてメールアドレス等の継続的に連絡が取り合える連絡先を記載した場合や、弁護士である代理人を選任した場合も同様に保護対象とすべきではないか。

 本検討会では、行政機関への公益通報における更なる通報者の不安軽減のため、書面でする公益通報の保護要件について、氏名に代えてメールアドレス等の継続的に連絡が取り合える連絡先を記載した場合や、弁護士である代理人を選任した場合も同様に保護対象とすべきではないか、との意見が出されました。
 この点について、本報告書は、以下の「対応」を示し、今後の検討課題と整理されました。

    • 現状、法の2号通報の保護要件は、主要先進国の法制度と比べて緩やかなものとなっており、これを更に緩和することは、信憑性に欠ける通報が増加するとともに、通報者が公益通報の主体に該当することの確認が困難となって、行政機関の対応負担が増大する懸念があり、今後、必要に応じて、慎重に検討すべきである。

8 終わりに

 以上のとおり、本報告書では、本検討会で検討された14の論点について、それぞれ今後の対応が示されました。
 本報告書末尾で「制度の実効性を向上するため、本報告書で提言された個別論点のうち、検討会で一定の具体的方向性が得られた事項については、法改正も含めた対応を早急に検討するよう、政府に要請する。」と記載され、本年の通常国会で法改正が行われる見込みです。
 また、本報告書では「法改正が行われた場合には、その実効性を確保するため、速やかに法定指針を見直し、事業者や国民への周知のため、施行までの期問を適切に確保すべきである。」とも記載されており、法改正後、速やかに法定指針の改正も行われると考えられます。

以上


[1] https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/review_meeting_004/assets/consumer_partnerships_cms205_250109_01.pdf

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