2025.03.17

企業不祥事:調査委員会実務と再発防止策について考える(後編)

のぞみ総合法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
公認不正検査士(CFE)
結城 大輔

 

 

  • 本論考は、結城がアドバイザー(フェロー)を務める一般社団法人経営倫理実践研究センター(BERC)の「アドバイザーコラム」に、2025年1月23日に掲載されたものを、BERCの許可のもと、Nozomi News
    Letterとしても一部改訂の上掲載させていただくものです。
  • 2025年3月11日付け前編では、大要、企業不祥事の発生時には、調査委員会が組成され、その調査報告書を公表する実務が定着していますが、残念ながら再発防止策の実行は必ずしも十分でない企業が多いこと、その理由として、「時間不足」、「人不足」、「予算不足」の課題があることを述べました。今回の後編では、これらの課題を解消する「再発防止支援プログラム」私案について論じます。

 

5 筆者私案:「再発防止支援プログラム」

 前述の日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」は、「③ 実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行」として、「再発防止策は、根本的な原因に即した実効性の高い方策とし、迅速かつ着実に実行する。この際、組織の変更や社内規則の改訂等にとどまらず、再発防止策の本旨が日々の業務運営等に具体的に反映されることが重要であり、その目的に沿って運用され、定着しているかを十分に検証する。」とうたっています。
 また、2018年に公表された「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」と、2019年に公表された「不祥事予防に向けた取組事例集」は、かかる再発防止策の遂行に取り組む際にも参考になる内容が多数含まれています。

 筆者として提案したいのは、これらに加え、以下のようなポイントを実務として定着させていくということです。微力ではありますが、例えば、当職や当事務所として、これらを「再発防止支援プログラム」として打ち出すことに尽力していきたいと考えています。

 

 

① 調査委員会による、原因分析・再発防止策提言の早期展開

委員長を務める調査委員会では既に取り組むように努めている工夫ではあるのですが、調査委員会としての原因分析・再発防止策提言の内容を、調査報告書が確定する前の時点で暫定的に、会社側に説明・展開し、会社側での検討が進められるようにすることが、難しさ1「時間不足」への対応のスタートとして重要と考えています。

② 調査進行中の会社側アドバイザリー業務

例えば当職・当事務所が調査委員会を務めていない事案において、調査委員会とは異なる立場である会社側アドバイザーとして関与し、原因分析・再発防止策策定の検討をサポートする必要性を感じています。難しさ1「時間不足」と2「人不足」に対応する対策です。 

③ コンプライアンス・モニター業務

米国等、海外で企業不正・不祥事が発生した場合、「コンプライアンス・モニター」等の名称で、外部弁護士等が一定期間、コンプライアンス・プログラムの遂行状況をモニタリングし、当局等にレポートする等の実務が定着してきています。

日本では現状、一部の業界や状況においてのみ行われていると思われますが、このようなモニター業務を再発防止支援のプログラム枠組の一環として広げていきたいと思います。難しさ2「人不足」への対応として大きな意味がありますが、米国ほどではないとしても相当の費用がかかりますので、難しさ3「予算不足」を解消するような経営陣の意識が必要となり、そのためにも「コンプライアンス・モニター」のような海外の取組の紹介や実績の積み重ねが重要と考えています。

④ 再発防止委員会の外部委員

再発防止策遂行のために設けられる部門横断的な社内の委員会等に、外部委員として参画し、外部専門家としての知見や経験をもとに、再発防止策の遂行状況や改善のために助言や支援を行う業務です。名称は様々で、筆者も「企業倫理委員会」の外部委員として年に数回会議に参加し、取組状況を確認し、コメント等を行うといった業務を担当している例があります。③の「コンプライアンス・モニター」と内容の重なる業務ですが、難しさ2「人不足」の補強、難しさ3「予算不足」の観点からは、「企業倫理委員会」等の名称での取組も、全て再発防止策遂行の一環と整理し、必要に応じて社内外にアピールすることが重要と考えます。

⑤ 再発防止策遂行のためのインハウス・サポート

④と同様に、再発防止策遂行のための「人不足」のサポートとして、多くの法律事務所が行っている「パートタイム・インハウス」のような業務を考えています。フルタイムでの企業出向となると、難しさ3「予算不足」の難しさも出てきてしまうため、に、週何日何時間ずつといった時間的・費用的により柔軟な立場で、社内の様々な部署の方々とやりとりしつつ、再発防止策の遂行の実務を担うことが有意義と考えています。

⑥ 事後的・定期的な点検・フォローアップ調査

調査委員会が数ヶ月調査を行い、調査報告書を提出して事実上大掛かりな対応を終わりとするのではなく、例えば、1年後や2年後など、事後的に一定期間の定期的なタイミングで、再発防止策の遂行状況を外部専門家として点検し、その達成点や改善点を確認して指摘・提言する業務が、「人不足」の補強の観点で重要と考えます。費用としても、③のコンプライアンス・モニター等と比較すれば、効率的な金額に抑えることも可能と思われ、難しさ3「予算不足」の観点からも有意義と考えます。

 

以 上

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