2019.04.03
企業が講じるべきSNS等における名誉毀損対応
(第1回 SNSでの炎上を防止するために、従業員に対して行うべきこと)
のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田 桂公
弁護士 村上 嘉奈子
弁護士 劉 セビョク
弁護士 鈴木 和生
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やウェブサイト上の掲示板等(以下「SNS等」といいます)が発達した現代社会において、企業の従業員がSNS等に不適切な情報を発信することにより、雇用主である企業がいわゆる「炎上」等の被害を受け、信頼回復に多くの労力とコストがかかることも少なくありません。企業が従業員によるSNS等の不適切な使用への対策を講じておくこと、また、採り得る手段について学習し、備えておくことは、危機管理の観点からも重要です。
<従業員によるSNS等の使用に関する労務管理の重要性>
企業の従業員が、SNS等を通じて顧客情報・個人情報を含む企業秘密を漏えいさせたり、第三者に対する名誉毀損やプライバシー侵害、知的財産権侵害等にあたる書込みをSNS等において行ったりした場合、当該従業員自身が不法行為に基づく損害賠償責任等の法的責任を負うだけでなく、その雇用主たる企業についても、従業員管理の不徹底やコンプアライアンス意識の欠如等を理由とする社会的信用の低下・風評被害や、使用者責任に基づく損害賠償責任等の不利益が生じる可能性があります。
また、従業員によるSNS等の不適切な使用によって当該企業または第三者に損害が生じた場合、当該企業の役員も、従業員のSNS等の使用に関する適切な規程・体制の整備・運用を行わなかったことを理由として、当該企業の株主や当該第三者から損害賠償を請求されるリスクがあります。
SNS等を含むインターネット上でなされた書込みへの対処としては、削除請求が法的手続として用意されていますが、全ての書込み等について削除請求が認められるわけではなく、一度行われた書込みを削除することは容易ではありません。
企業としては、一度SNS等に書込みが行われた場合は必ずしも容易に削除できるとは限らないこと、また、多くの場合、インターネット上の情報は瞬時に拡散し、統制がきかないことを前提に、従業員によるSNS等の使用に関して、例えば、以下のような労務管理制度を策定し、実施することが重要です。
ポイント1 SNS使用規程の制定
就業規則のほか、従業員のSNS等の使用に関する社内規程(以下「SNS使用規程」といいます)を設け、その内容を従業員に周知しておくことが重要です。
SNS使用規程には、以下の事項等を明記しておくことが考えられます。
- 公私を明確に分け、顧客情報・個人情報を含む企業秘密の漏えい・開示、第三者に対する名誉毀損やプライバシー侵害、知的財産権侵害等にあたる書込みを行わないこと
- プロフィール欄等で自身の所属企業を明らかにしてSNS等を使用する際には、SNS等における言動が所属企業の意見や主張であるとみなされてしまうことを十分に意識して、とりわけ言動に細心の注意を払い、必要に応じて自身の書込み内容が所属企業の意見や主張ではないことを表明すること(そもそも「所属企業を明らかにしてSNS等を使用してはいけない。」と規定することも考えられます)
- アカウントが他者に乗っ取られる可能性があることを認識し、口座番号やパスワードなどの個人情報をSNS等において記載しないほか、他人に推測されやすいパスワードを設定しないこと
ポイント2 誓約書の提出
従業員に、SNS使用規程に反する使用をしないことを誓約する旨の誓約書を提出させることも効果的です。
ポイント3 SNS等の使用に関する研修の実施
社内規程を整備するだけでなく、SNS等の使用に関する研修を実施することも重要です。研修では、SNS等のもつ有用性とリスクの双方を伝えながら、実際にあったトラブルの事例や裁判例等を交えつつ、規程等に従った適切なSNS等の使用を促すことが肝要です。
ポイント4 公式アカウントを運用する場合
近年、従業員が、業務の一環として、SNS等における所属企業の公式アカウントまたは従業員自身のアカウントを用いて企業の宣伝を行う場合、当該SNS等における従業員の言動は、原則として企業自身による言動と同視されますので、SNS等にアップロードされる前の記事内容等に関する事前チェックの態勢を整備し、十全なチェックを実施することが重要です。