2019.09.24

相続法改正について(第2回)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 安田 栄哲

1.はじめに

 今回は,相続法の改正点のうち,②遺言の利用の促進について解説いたします。なお,特に指定がない場合,条文番号は改正後の民法における条文を指しています。 

2.遺言の利用の促進

 遺言は,遺産をどのように分配するか等,被相続人の最終意思を明らかにし,これにより相続人間の遺産をめぐる紛争を防止する機能を有しています。しかし,これまでは,自筆証書遺言では遺言者が全文を自書しなければならない等,遺言の方式が厳格で遺言者の負担となっており,必ずしも遺言が十分に利用されているとはいえなかったことから,遺言の利用が促進されるよう,今回の改正が行われました。 

(1)自筆証書遺言の方式緩和

 改正前の民法では,自筆証書遺言は,その全文を自書しなければならないとされていました(9681項)。
 しかし,高齢者等に遺言書の全文を自書させることはかなりの負担となり,これが自筆証書遺言の利用を阻害している一因と考えられていました。
 そこで,本改正においては,自筆証書遺言において,相続財産等の目録を添付する場合,その目録については,自書を要せず,パソコン等で作成して添付することが可能となりました(9682項)。もっとも,偽造・変造を防止するため,遺言者は,自書によらない(パソコン等を使用して作成した)目録の各頁に署名押印をしなければならないとされています。

 (2)遺贈の担保責任

 先に成立した改正民法(改正債権法。2017526日成立・202041日施行予定)において,贈与に関する規定についても改正が行われ,民法5511項が「贈与者は,贈与の目的である物又は権利を,贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定する。」との規定に改められたことを受けて,贈与と同じ無償行為である遺贈についても,平仄を合わせるべく,改正が行われました。これにより,遺贈義務者は,遺贈の目的である物又は権利を,相続開始時の状態で引き渡し又は移転する義務を負い,遺言者が別段の意思を表示したときは,その意思に従い,遺贈を行うこととされました(998条)。

 (3)遺言執行者の権限の明確化等

 改正前では,遺言執行者の地位や権限について,一般的・抽象的な規定があるに留まり(改正前民法1012条),遺言執行者は誰のために職務を遂行するか,特定の場合に具体的にどのような権限を有するかといった点が明確ではありませんでした。
 そこで,遺言執行者の法的地位については,「遺言の内容を実現するため」にその職務を行うとされ(10121項),改正前民法第1015条にあった「相続人の代理人とみなす」との表現も削除されました。これにより,遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場合であっても,遺言執行者は遺言の内容を実現するために職務を行い得ることとなりました。
 なお,改正前は,判例上,特定の財産について遺贈がされた場合,一次的には相続人が遺贈義務者で,遺言執行者がいる場合には,遺言執行者のみが遺贈義務者となるとされていたところ(最判昭和43.5.31民集2251137頁),遺言執行者がいる場合には,特定遺贈と包括遺贈とを問わず,遺贈の履行は遺言執行者のみが行うとの規定が新設されました(10122項)。
 また,遺言執行者は,その任務開始時に,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければならず(10072項),いわゆる「相続させる旨の遺言」の際に,原則として,対抗要件具備のために必要な行為をする権限(例えば,不動産について単独で相続による権利の移転の登記申請を行う権限)や預貯金の払戻し・解約権限を有することとなりました(10142項,3項)。

 (4)遺言執行者がいる場合の相続人の行為の効果

 その他,遺言執行者がある場合に,相続人は相続財産の処分等の遺言の執行を妨げる行為を行うことができず(10131項),当該処分行為等は原則として無効であるとされていました(大判昭和5.6.16民集9550頁)。一方で,相続人の債権者が,遺贈の目的とされた不動産の差押えを行った事案においては,受遺者と当該債権者は,先に登記を備えた者が当該不動産に関する権利を確定的に取得するとする判例も存しました(最判昭和39.3.6民集183437頁)。
 そこで,遺言執行者がいる場合に相続人がした処分行為を原則として無効としつつ,処分の相手方等の第三者が善意のときは,相続人に処分権限がなかったことを第三者に主張できないとする規定が新設されました(10132項)。また,遺言執行者がいる場合であっても,相続債権者や相続人の債権者の権利行使が妨げられない旨の注意規定も,新たに設けられています(10133項)。

 (5)適用開始時期

 原則として,施行日は201971日です。もっとも,自筆証書遺言の方式緩和については2019131日(附則12号),遺贈については202041日が施行日となります(同条3号)。
 なお,自筆証書遺言については,施行日前に作成されたものは旧法によるとされ(附則6条),施行日前になされた遺贈は旧法によるとされています(附則7条)。

以上

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