2020.02.25
会社法改正について(第1回)
のぞみ総合法律事務所
弁護士 劉 セビョク
1.はじめに
2019年12月4日、「会社法の一部を改正する法律」が臨時国会の参議院本会議にて可決され、2014年の改正以来、5年ぶりに会社法が改正されることとなりました。改正会社法は、一部を除いて、公布の日から1年6か月以内の、追って政令により指定される日に施行されます。
2014年の改正時と同様、今回の改正点も多岐にわたり、主に企業統治に関連する規定が改正されます。このうち、今回は、株主総会における「株主提案権の制限」について紹介します。
2.株主提案に関する現行会社法の内容
株主(※取締役会設置会社においては、所定の持株要件や期間要件を充足した株主に限ります。)は、取締役に対し、株主総会の目的となる事項(議題)を提案することができる(会社法第303条)ほか、株主総会において議案を提出することができます(会社法第304条)。「議題」や「議案」の区別は、容易ではありませんが、例えば、「取締役●名選任の件」「剰余金処分の件」といった、株主総会の決議事項に掲げられる部分が「議題」にあたり、この議題の具体的内容をなす、「甲野太郎を取締役に選任する」「1株あたりの配当を●円とする」といった部分が「議案」にあたると一般的には考えられています。以下、株主が行う「議題」や「議案」の提案のことを「株主提案」といいます。
また、株主提案をする株主(※取締役会設置会社においては、所定の持株要件や期間要件を充足した株主に限ります。)は、取締役に対し、株主総会の会日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては当該期間)前までに、株主提案の要領を招集通知に記載するよう請求することができます(会社法第305条第1項。以下、この請求を「議案通知請求」といいます。)。
実際の株主総会においてなされる株主提案や議案通知請求の中には、以前から、会社による株主総会の運営に支障を来すものが少なからず存在しました。
現行会社法は、濫用的な株主提案、あるいは可決される見込みが著しく低い株主提案を制限するため、内容において法令や定款に違反している議案や、10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案と実質的に同一の議案については、議案通知請求を認めないという規定を置いています(会社法第305条第4項)。
しかし、近年、上場会社を中心に、明らかに企業経営とは関連がない内容の株主提案がなされる、一人の株主から極めて大量の数の議案通知請求がなされ会社側がその膨大な処理に追われる、といった事例が頻発したことにより、もはや現行会社法第305条第4項のみでは十分な制限たりえていないのではないか、という点が指摘されていました。
3.改正会社法の内容
改正会社法は、以上のような経緯を踏まえ、取締役会設置会社に関して、株主提案の数が議案にして10を超えるときは、10を超える数に相当することとなる数の議案については、議案通知請求が認められない、という取扱いを新たに設けました(改正会社法第305条第4項。現行会社法の第305条第4項は同条第6項に条文が移動します。)。なお、改正会社法第305条第4項にいう「議案」の数え方については、一般的な「議案」の数え方とは異なり、以下のような特則が設けられています。
① 取締役、会計参与、監査役又は会計監査人(以下「役員等」といいます。)の選任に関する議案 ⇒ 当該議案の数にかかわらず、これを1つの議案とみなします。例えば、「取締役3名選任の件」という議 題について、候補者としてA、B、Cの3名を掲げる場合、通常であれば、候補者一人ひとりについて個別 の議案が上程されている(=3つの議案が上程されている)と考えますが、改正会社法第305条第4項 の適用場面においては、まとめて1つの議案として数えることになります。
② 役員等の解任に関する議案 ⇒ 当該議案の数にかかわらず、これを1つの議案とみなします。
③ 会計監査人を再任しないことに関する議案 ⇒ 当該議案の数にかかわらず、これを1つの議案とみな します。
④ 定款の変更に関する2以上の議案 ⇒ 当該2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議 決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これを1つの議案とみなします。
また、10を超える数の議案が提出された場合において、株主が議案間の優先順位を設けている場合には、その優先順位に従い、優先順位が特段定められていない場合には、取締役が順番を定めてよいことになっています(改正会社法第305条第5項)
なお、要綱段階では、株主提案の内容に基づく議案通知請求の制限についても盛り込まれていましたが、最終的には削除されました。会社側の恣意的な判断により株主提案の上程が拒絶されることへの憂慮があったことによりますが、個別の事例において、濫用的な株主提案の拒絶が許容される場合はなおあり得ると考えられています。
まとめ(改正のポイント)
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濫用的でないものも含め、株主提案は近年増加傾向にあります。会社側にとり悩ましい株主提案がなされた場合には、弁護士や証券代行を交えた慎重な準備が望まれます。
次回は、株主総会招集通知の電子提供について取り上げます。
以上