2020.04.13

新型コロナウイルス感染症への対応① ~バーチャル株主総会

のぞみ総合法律事務所
弁護士 劉 セビョク

1.新型コロナウイルス感染症への対応

 今般の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を受け、会社運営、取引先との契約、労務等の種々の場面で悩みを抱えておられる方も多くいらっしゃると思います。
 そこで、のぞみ総合法律事務所では、新型コロナウイルス感染症対応において、皆様にご留意いただきたい法的事項等についてニュースレターとして順次公開してまいります。
 ご不明な点やご質問等がございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.nozomisogo.gr.jp/contact)までご連絡ください。

 まず、第1回では、ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施について解説します。

2.ハイブリッド型バーチャル株主総会とは何か

 会社法は、株主による株主総会への出席方法について特段の制限を設けていませんが、多くの株主総会は、従来、取締役や株主又はその代理人等が物理的な場所に一堂に会する方法で行われていました(このような従来型の株主総会は「リアル株主総会」と呼ばれています。なお、会社によっては、議長が物理的に在所する会場のほかに、遠隔地等に第2会場、第3会場等を設ける場合もあります。)。そのため、株主総会当日に会場への物理的な来場が困難な株主においては、事前に議決権行使書面を提出するか、第三者に委任状を託し、自らの代わりに議決権を行使してもらうほかなく、当日の議事の様子を傍聴したり、実際に議事に参加したりすることができない、という状況がありました(とりわけ、日本においては特定の時期に上場会社の株主総会が集中するため、複数の会社の株式を保有する株主は、日程の重複等の理由によりいずれかの株主総会への出席を諦めなくてはならないというケースがしばしば生じます。)。
 上記のような問題点を解消し、株主による株主総会への参加の機会をより広く保障する観点から、今般、リアル株主総会に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて株主総会に参加又は出席できる、「ハイブリッド型バーチャル株主総会」の導入が本格的に検討されるに至りました(これに対し、取締役や株主等がリアル株主総会を開催することなくインターネット等の手段を用いて出席する株主総会のことは「バーチャルオンリー株主総会」と呼ばれています。)。

3.ハイブリッド型バーチャル株主総会の導入

 経済産業省は、2019年5月22日、「企業と投資家・株主との企業価値向上に向けた建設的な対話を促すための各種の環境づくり」の一環として、ハイブリッド型バーチャル株主総会の導入に関するパブリックコメントを募集し(https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190522002/20190522002.html)、この募集手続を経て、2020年2月26日、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf)が公表されました。
 ハイブリッド型バーチャル株主総会は、このように、本来は、会社・株主間の対話環境の整備の一環として導入が進められていたものですが、従来型と異なり株主による物理的な来場を要しないという利点から、期せずして、今般の新型コロナウイルス感染症の感染予防策としてその活用が注目を浴びています。
 実際に、2020年の3月総会においても、いくつかの上場会社がハイブリッド型バーチャル株主総会方式により定時株主総会を実施しています。

4.ハイブリッド型バーチャル株主総会の内容

 ハイブリッド型バーチャル株主総会は、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」と「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」に分けられています。
 前者の「ハイブリッド“参加型”バーチャル株主総会」は、株主による株主総会への「出席」を伴わず、株主がインターネット等を通じて株主総会の審議の確認、傍聴を行うことができる方式の株主総会をいいます。この場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主はリアル株主総会に「出席」しているわけではないため、質問(会社法第314条)や動議(会社法第304条等)を行うことはできず、当該株主による議決権行使は、事前の議決権行使書面や委任状の提出を通じて行うことになります。
 後者の「ハイブリッド“出席型”バーチャル株主総会」は、株主においてインターネット等を通じて株主総会に「出席」し、質問や動議、議決権行使を行うことができる方式の株主総会をいいます。この方式による株主総会については、リアル株主総会の開催場所と、インターネット等を通じて出席する株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている必要があり、会社においては通信環境の整備を要します(株主総会開催中の通信障害は、その規模や内容によっては、株主総会の決議取消事由になり得ますので、注意が必要です。)。
 また、なりすましによる株主総会への出席を防ぐため、インターネット等を通じて出席する株主の本人確認方法についても工夫が必要です。前記「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」においては、本人確認の方法として、事前に株主に送付する議決権行使書面等に株主毎に固有のIDとパスワード等を記載して送付し、当該IDとパスワード等を用いたログインを求める方法が勧められています。

5.6月総会に向けて

 「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」についてはその導入に少なくないコストを要することが予想され、即時の導入が難しい場合が考えられますが、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」については、必ずしも多くのコストを要しないものと思われます(昨年時点でも、一部の上場企業においては、来場しなかった株主向けに、株主総会の議事の様子を動画配信サイトで中継していました。)。
 一方で、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、経済産業省及び法務省は、2020年4月2日、「株主総会運営に係るQ&A」(https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html)を公表し、その中で、(リアル株主総会を念頭に置いて)株主に対し株主総会への出席を控えるよう呼びかけ、事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいとの見解を明らかにしました。
 6月総会を控える会社においては、感染拡大防止の徹底と、株主による株主総会への参加・出席の機会の保障を両立すべく、ハイブリッド型バーチャル株主総会実施の検討・整備が望まれているといえるでしょう。

以上

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