2020.07.08

金融サービス仲介業の創設(その1)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田 桂公

 2019年1220日公表の金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」(以下「WG報告」といいます。)[1]を踏まえ、国会での議論を経て、202065日、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、同月12日に公布されました。施行日は公布の日から起算して16か月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、2021年の秋冬頃に施行されるものと思われます。
 この中で、「金融商品の販売等に関する法律」が改正され、その名称が「金融サービスの提供に関する法律」に改められ、新しく「金融サービス仲介業」が創設されました。今回は、「金融サービス仲介業」創設の経緯等について、解説します。ご不明点や本件に関するご質問等がございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.nozomisogo.gr.jp/contact)までご連絡ください。

1 「金融サービス仲介業」創設の経緯

 就労や世帯の状況が多様化する中、利用者が、様々なサービスの中から自身に適したものを選択しやすくすることは重要です。また、情報通信技術の発展により、オンラインでの金融サービスの提供が可能になっており、日常生活上の金融取引ニーズに応える新たなビジネスが展開されることも想定されます。しかし、銀行・証券・保険すべてのサービスをワンストップで利用者に提供する仲介業者は5者しかなく(201912月末現在)[2]、利用者の利便性の点からは十分とはいえない状況です。
 そこで、イノベーションを促進し、利便性のより高い金融仲介サービスを実現していく観点から、複数業種かつ多数の金融機関が提供する多種多様な商品・サービスをワンストップで提供する仲介業者に適した業種を創設することとなりました。

2 「業態ごとの縦割り規制」と「所属制」

 上記のように銀行・証券・保険すべてのサービスをワンストップで利用者に提供する仲介業者が少ないのは、以下のような、①業態ごとの縦割り規制と②所属制が原因にあると考えられます。
 すなわち、現行制度下で複数業種(銀行・証券・保険)にまたがって多数の金融機関が提供する金融サービスを仲介しようとした場合、
 ① 銀行法における銀行代理業者、金融商品取引法における金融商品仲介業者、保険業法における保険募
  集人や保険仲立人といった業種ごとの規制が存在し、仲介しようとする分野に応じて複数の登録等が求
  められる
ほか、
 ② 特定の金融機関に所属することが求められており、多数の金融機関が提供する商品・サービスを仲介
  しようとする場合、所属金融機関それぞれから行われる指導に対応する必要があります(銀行代理業者
  、金融商品仲介業者、保険募集人等は、制度上、特定の金融機関に「所属」することとされており、所
  属制の下では、所属先の金融機関は、例えば、仲介業者の指導等の義務や、仲介業者が顧客に加えた損
  害の賠償責任を負うこととされています。)。
 このように、現行制度は、複数業種にまたがった仲介や多数の金融機関を相手方とする仲介を必ずしも念頭に置いていない面があり、事業者にとって負担が大きいとの指摘がなされています(WG報告20頁)。
 そこで、WG報告では、
 ① 業種ごとの複数の登録等を受けずとも、新たな仲介業への参入により、複数業種をまたいだ商品・サ
  ービスの仲介を行うことを可能とすること
 ② 新たな仲介業者には所属制を採用せず、取扱可能な商品・サービスの限定、利用者資金の受入れの制
  限、財務面の規制の適用等により利用者保護を図ること
等に留意しつつ、制度の具体的な検討を進めていくことが適当である、とされました(同報告21頁)。これを受け、新たに創設した「金融サービス仲介業」は、概要、
 ① 業態ごとの縦割りだった既存の仲介業と異なり、1つの登録で銀行・証券・保険すべての分野のサー
  ビスを仲介可能とするなど、ワンストップ提供に最適化し(下記図1参照)、
 ② 様々なサービスを取り扱えるよう、金融サービス仲介業には、特定の金融機関への所属を求めないこ
  とにし、代わりに、取扱可能なサービスの制限や利用者財産(サービス購入代金など)の受入禁止、保
  証金の供託義務により利用者保護を図る(下記図2参照)
との規制となっています。

<図1

<出典:説明資料3頁>

<図2

<出典:説明資料4頁>

 金融サービス仲介業の具体的な業務範囲や規制の内容等については、「金融サービス仲介業の創設(その2)」で解説します。

以上


[1] https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20191220.html

[2] 20203月「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料」(以下「説明資料」といいます。https://www.fsa.go.jp/common/diet/201/01/setsumei.pdf2頁。

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