2020.07.29

金融サービス仲介業の創設(その2)

のぞみ総合法律事務所
弁護士 吉田 桂公

 今回は、金融サービス仲介業の具体的な業務範囲や規制の内容等について、解説します。ご不明点や本件に関するご質問等がございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.nozomisogo.gr.jp/contact)までご連絡ください。

3 金融サービス仲介業の業務範囲

(1)「金融サービス仲介業」とは

 「金融サービス仲介業」とは、「預金等媒介業務」、「保険媒介業務」、「有価証券等仲介業務」、「貸金業貸付媒介業務」のいずれかを業として行うことをいいます(金融サービスの提供に関する法律(以下「法」といいます。)11条)。

 
「預金等媒介業務」:銀行等代理業者以外の者が、①銀行等のために預金等の受入れを内容とする契約の締結の媒介、②銀行等と顧客との間において行う資金の貸付け等を内容とする契約の締結の媒介、③銀行等のために行う為替取引を内容とする契約の締結の媒介のいずれかを行う業務。

「保険媒介業務」:保険募集人・保険仲立人以外の者が、保険会社等と顧客との間における保険契約の締結の媒介を行う業務。

「有価証券等仲介業務」:第一種金融商品取引業者・金融商品仲介業者以外の者が、第一種金融商品取引業者・投資運用業者・登録金融機関と顧客との間において行う有価証券の売買の媒介等を行う業務。

「貸金業貸付媒介業務」:貸金業者以外の者が、貸金業者と顧客との間における資金の貸付け等を内容とする契約の締結の媒介を行う業務。

 なお、「仲介業者を通じた多様な金融商品・サービスへのアクセスを確保する必要はあるが、必ずしも仲介業者が金融機関や顧客に代わって取引を成立させる必要はないと考えられる」ことから、「新たな仲介業者の仲介行為として「代理」は認めないこととすることが適当である」とされ[1]、「金融サービス仲介業」の業務として認められるのは媒介であり、代理までは認められません(金融サービス仲介業者に契約締結権限まではありません。例えば、現行法の保険代理店は、一般に、生命保険では媒介の権限、損害保険では代理権を有していますが、金融サービス仲介業としては、保険分野においても、媒介の権限のみとなります。)。

(2)兼業規制

 「銀行・証券・保険の各分野において、ある仲介業者が既存の仲介業と新たな仲介業の両方の許可・登録を受け、両方の立場で仲介行為を行いうることとした場合、仲介業者がいずれの立場でいかなる規制に基づいて仲介行為を行っているのか顧客に混同をもたらすおそれ」[2]があります(つまり、両方の立場で仲介行為を行えるとなると、それぞれ規制が異なるにもかかわらず、顧客から見れば、当該業者が、既存の仲介業として商品の提案等をしているのか、金融サービス仲介業として商品の提案等をしているのかがわからず、混乱するおそれがあります。)。
 そこで、今回の法改正では、現行法に基づく仲介業と同じ分野で金融サービス仲介業の登録を受けることはできない、とされました(現行法に基づく仲介業者は、同じ分野で金融サービス仲介業を行うことができる主体から除かれています。)。例えば、現行法に基づく保険代理店は、金融サービス仲介業である「保険媒介業務」を同時に行うことはできませんが、「保険媒介業務」以外の「預金等媒介業務」、「有価証券等仲介業務」、「貸金業貸付媒介業務」を行うことは可能です。そこで、現行法の保険代理店としては、(ア)現在の保険商品の販売の方法を維持しながら、新たに、金融サービス仲介業として、「預金等媒介業務」、「有価証券等仲介業務」、「貸金業貸付媒介業務」に参入すること、また、(イ)現行法の保険代理店を廃業し、「保険媒介業務」、「預金等媒介業務」、「有価証券等仲介業務」、「貸金業貸付媒介業務」のすべてを金融サービス仲介業として行うことが考えられます。

4 金融サービス仲介業に関する規制

(1)「所属制」を外したことに伴う利用者保護のための規制

 ア 保証金の供託義務

 WG報告では、「所属制を採用する既存の仲介業においては、仲介行為に関して顧客に損害が生じた場合、原則として所属金融機関がその賠償責任を負うこととされているが[3]、新たな仲介業には所属制を採用しないことから、新たな仲介業者自らが賠償責任を負う前提で制度を検討する必要がある」、「このため、顧客の保護を図る観点から、新たな仲介業者の賠償資力の確保に資するよう、保証金の供託等を求めることが適当である」とされ[4]、金融サービス仲介業者は保証金を供託しなければなりません(法22条。下記図3参照)。
 保証金の額については、今後、政令で定められますが、例えば、「一定の額をベースに、前事業年度に得た手数料その他の対価の合計額の一定割合を加えた額の供託等を求めること」が想定されます[5]

 イ 高度な説明を要するサービスの制限

 WG報告では、「新たな仲介業者には所属制を採用しないため、商品・サービスを提供する金融機関(銀行、証券会社、保険会社等)による指導・監督や賠償責任の負担がなされるとは限らない。また、顧客の資産状況やライフプランに応じて顧客に適した金融商品・サービスの比較・推奨等を行うビジネスを念頭に置けば、商品設計が複雑な金融商品・サービスを仲介するニーズは大きくないと考えられる」ことから、「新たな仲介業者には、商品設計が複雑でないものや、日常生活に定着しているものなど、仲介にあたって高度な商品説明を要しないと考えられる商品・サービスに限って取扱いを認めることが適当である」とされ[6]、顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスは、金融サービス仲介業から除外されます(つまり、金融サービス仲介業としては行うことができません。)。
 その詳細は、今後、政令で定められますが、金融サービス仲介業では、仕組預金、非上場株式、デリバティブ取引、変額保険、外貨建保険等の取扱いが制限されることが想定されます(下記図3参照)。

<図3>

<出典:2020年3月「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案説明資料」4頁>

 

「金融サービス仲介業の創設(その3)」では、金融サービス仲介業に関する規制の続きについて、解説します。 

以上


[1] 20191220日公表の金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」(以下「WG報告」といいます。)22頁。

[2] WG報告24頁。

[3] 例えば、保険業法2831項は、「所属保険会社等は、保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。

[4] WG報告23頁。

[5] WG報告23頁。

[6] WG報告22頁。

 

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