2021.06.21

改正産業競争力強化法成立 バーチャルオンリー型株主総会が実施可能となります!

のぞみ総合法律事務所
弁護士 福塚 侑也

 2021年2月5日に国会に提出された産業競争力強化法等の一部を改正する法律案が、同年5月26日に衆議院を通過し、翌6月9日参議院でも賛成多数により可決・成立し、同月16日公布されました(以下「改正産競法」といいます。)。改正産競法の内容はカーボンニュートラルやデジタル化の実現を支援するものなど多岐にわたりますが、その中でも上場会社のバーチャルオンリー型株主総会の開催が特例的に可能となったことが非常に注目されています。
 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、昨年よりバーチャル株主総会の実施に係る議論が活性化され、実際に、後述のハイブリッド参加型バーチャル株主総会の実施例が増えています。他方、バーチャルオンリー型株主総会については、現行会社法の解釈のもとでは適法に実施することが難しいと考えられており、これを可能とする法整備が求められていました。
 そこで今回は、改正産競法の中でも、このような実務の要求に応えたバーチャルオンリー型株主総会に関する特例について概説いたします。

1 バーチャルオンリー型株主総会とは

 取締役や株主等がインターネット等の手段によりアクセスできるようにして開催される株主総会のことをバーチャル株主総会といいます。バーチャル株主総会は、リアル株主総会の有無により大きく2つに分類されます。

① ハイブリッド型バーチャル株主総会

リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴し、または会社法上の「出席」をすることができる株主総会のこと。なお、会社法上の「出席」を伴うものをハイブリッド出席型、会社法上の「出席」を伴わないものをハイブリッド参加型と区分されます。

② バーチャルオンリー型株主総会

リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をする株主総会のこと。

 このうち、ハイブリッド型バーチャル株主総会については、現行会社法上適法に実施できると考えられており、2020年6月株主総会では、以下のとおり、前年と比較してその数を増やしています。

(出所:三菱UFJ信託銀行調査)


(注)2020年6月に株主総会を実施した上場会社は2344社である。

 これに対して、バーチャルオンリー型株主総会については、

  • 会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の「場所」を定めなければならないとされていること
  • ここでの株主総会の「場所」(会社法第298条1項1号)とは、単に議長が所在する場所ではなく株主が出席することができる物理的な場所を意味するものと考えられていること

などから、現行会社法における解釈の下では、これを適法に実施することは難しいとされていました。

2 改正産競法の成立

 上記のとおり、ハイブリッド型バーチャル株主総会の活用が進む中、バーチャルオンリー型株主総会については、さらに次のような観点からこれを実施可能とする法整備が求められていました。

  • 物理的な会場の確保及び物理的な開催に伴い必要となる設備費、人件費等を削減することができる。
  • 会場の確保や会場の使用時間に関する制約等がなくなるため、株主総会の開催日時に関する柔軟性が大幅に高まる。
  • 新型コロナウイルス感染拡大等の不可抗力により物理的な株主総会の開催・出席が不可能な場合でも、株主総会を実施することができる。

 このような実務上の要求を受けて、2021年6月9日、改正産競法が成立し、参議院でも賛成多数により可決され、成立しました。そのうち、バーチャルオンリー型株主総会に係る規定の概要を確認していきましょう。
 なお、バーチャルオンリー型株主総会に係る規定である改正産競法第66条は、同月16日の改正産競法の公布と同日に施行されています(改正産競法附則第1条第1号)。

 改正産競法第66条1項は、概要次のように定められています。
 上場会社は、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることができる

 本項から導かれるバーチャルオンリー型株主総会を実施することの要件は次の3点です。
 ① 上場会社であること
 ② バーチャルオンリー型株主総会が株主の利益の確保に配慮しつつ産業協力を強化することに資する場合
   として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて経済産業大臣及び法務大臣の確認を
   受けること
 ③ 株主総会をバーチャルオンリー型株主総会とすることができる旨を定款で定めておくこと

 ②につき、改正産競法の公布・施行と同日に公布・施行された、産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令(法務省経済産業省令第1号。以下「改正産競法省令」といいます。)第1条によれば、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合の要件は、次の4点のいずれにも該当することと定められています。

 (1) バーチャルオンリー型株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に関する事務の責任
   者を置いていること
 (2) バーチャルオンリー型株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に係る障害に関する
   対策についての方針を定めていること
 (3) バーチャルオンリー型株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法としてインターネッ
   トを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針を定めていること
 (4) 株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上であること

 改正産競法省令第2条第3項によれば、経済産業大臣及び法務大臣は、上場会社による②の確認の申請に当たって、(1)~(4)の要件に該当することを確認するために必要と認める書類の提出を求めることができるとされています。そのため、②の確認を求める上場会社は、(1)~(4)の要件に該当することを示す資料を準備の上、その申請を行う必要があります。

 なお、③については、②の確認を受けた上場会社は、改正産競法の施行日から2年を経過するまでの間、定款に上記定めがあるものとみなすことができるとする附則が設けられています(改正産競法附則第3条1項)。
 もっとも、本附則に基づいて開催されたバーチャルオンリー型株主総会において、③に係る定款変更のための決議をすることはできないとされています(改正産競法附則第3条2項)。そのため、改正産競法の施行日から2年経過後にバーチャルオンリー型株主総会を開催するためには、③に係る定款変更のためのリアル株主総会を開催しなければならない点に注意が必要です。

これらにより、上場会社については、法律上、バーチャルオンリー型株主総会を実施することが可能となりました。

3 定款変更議案について

 上記のとおり、改正産競法の施行日から2年経過後にバーチャルオンリー型株主総会を開催するためには、③に係る定款変更のためのリアル株主総会を開催しなければならないところ、2021年6月総会においてバーチャルオンリー型株主総会を実施することを可能とする定款変更を決議事項としている上場会社も見られます。以下、その一例をご紹介いたします。

 例えば、武田薬品工業株式会社では、改正産競法の成立、公布・施行及び②の確認を受けることを条件として、バーチャルオンリー型株主総会を実施することを可能とする定款変更議案が提案されています
(武田薬品工業株式会社第145回定時株主総会招集通知参照(https://www.takeda.com/49beb1/siteassets/jp/home/investors/report/shareholders-meetings/sm_145_01_jp.pdf))。
 なお、変更案は以下のとおりです。
 「当会社は、感染症拡大または天災地変の発生等により、場所の定めのある株主総会を開催することが、株主の利益にも照らして適切でないと取締役が決定したときには、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる。」

 また、株式会社三井住友フィナンシャルグループでも、同じく改正産競法の成立、公布・施行及び②の確認を受けることを条件として、バーチャルオンリー型株主総会を実施することを可能とする定款変更議案が提案されています(株式会社三井住友フィナンシャルグループ第19期定時株主総会招集通知参照
https://www.smfg.co.jp/investor/financial/meeting/2021_pdf/tuuti_202106.pdf))。もっとも、招集通知では、当該定款変更議案の付議に支障が見込まれると判断する場合は撤回する旨も記載されています。
 なお、変更案は以下のとおりです。
 「当会社は、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる。」

4 おわりに

 現在も新型コロナウイルスがその猛威を振るっている状況にあり、また、新型コロナウイルス感染拡大に伴いビジネスのデジタル化が大幅に進み、バーチャル株主総会は株主総会のニューノーマルとして定着していくことが想定されます。そうした中、上場会社においては、株主との適切な対話・コミュニケーションを実現する手段として、バーチャルオンリー型株主総会が広く求められるものと思われ、その導入に当たって適切な準備が必要となるでしょう。
 本稿に関しまして、ご不明な点やご質問等がございましたら、お気軽にお問い合わせフォーム(https://www.nozomisogo.gr.jp/contact)までご連絡ください。

以上

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