2021.09.02

M&Aをめぐる最近の動向

のぞみ総合法律事務所
弁護士 劉 セビョク

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症の猛威により人と物の流れが減少した一方、M&A市場は世界的に再び活発化しています。日本も例外ではなく、M&Aの仲介を行っている株式会社レコフが発表した情報によれば、2019年に日本企業が当事者となる M&Aの件数は 4,088件(うちクロスボーダーM&Aは1,088件)[1]であり、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響により一時的に3,730件(うちクロスボーダーM&Aは786件)[2]に減少したものの、2021年は依然として新型コロナウイルス感染症の影響下にあるにもかかわらず再び活発化し、過去最多件数を記録する勢いです(1月から6月までの件数は過去最多であり、東京証券取引所の再編に備えてM&Aを実施する企業が多いことによるものと分析されています。)[3]
 日本においては、従来、事業再編に消極的な企業が多いところでしたが、グローバル化の進展やデジタル革命等の経営環境の変化に対応するため、大企業を中心に事業ポートフォリオの見直しが進められています。また、IPO(株式公開)を達成目標とするスタートアップが多かったものの、近年はM&AをExitの選択肢とするスタートアップが徐々に増えており、M&A の成立件数の増加の要因のひとつになっていると考えられます。加えて、中小企業における後継者不在によるM&Aの増加も成立件数増加のもう一つの要因になっています。
 経済産業省は、M&Aのさらなる活発化を期して、近年、いくつかの方針を公表しており、以下において概説します。

2.事業再編実務指針

 経済産業省は、2020年7月31日、「事業再編実務指針 ~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて」を公表しました。
 日本においては事業再編に消極的な企業が多く、同指針は、日本企業の持続的成長のためには経営資源を主要事業の強化や成長事業・新規事業への投資に集中させる必要があり、そのための事業ポートフォリオの見直しが必要であるとしています。また、必要に応じて積極的なカーブアウトM&A等の事業再編が望ましいとしています。

3.大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書

 経済産業省は、2021年3月26日に「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」を公表しました。
 同報告書は、米国に比して日本のスタートアップはM&AよりもIPOをExitとして設定する傾向があるところ、大企業等の事業会社が自社の成長戦略の中にスタートアップのM&Aを組み込んでいくことは、オープンイノベーションによる中長期的な企業価値向上につながるものであるとともに、スタートアップの安定的成長に資するとしています。また、M&Aの成立を妨げてきた、Buyer・Seller間における企業価値評価の乖離の問題を解決する方法として、アーン・アウト・スキームや、自社株式を対価とする方法等が紹介されています。
 とりわけ、自社株式を対価とするM&Aについては、2021年3月に施行となった改正会社法による株式交付制度の導入及び同年の税制改正により一定の場合に対象会社株主における対象会社株式の譲渡損益が繰り延べることとされたこともあり、今後、大企業を中心に普及していくものと予想されます。

4.中小M&A推進計画

 中小企業庁は、2021年4月28日に「中小M&A推進計画」を公表しました。
 「中小M&A推進計画」は、中小企業の経営者の後継者問題や新型コロナウイルス感染症の問題に対応しつつ、経営資源を集約化していくことを目的として、今後のM&A推進に向けた取組みについて述べています。
 当該取組みの一つとして、M&A仲介業者等の「M&A専門事業者」の登録制度が創設され、2021年8月24日、同登録制度の申請受付が開始されました。登録機関は、政府からの補助金の支給対象となることから、この補助金制度を利用することによりM&A当事者の仲介手数料の負担を軽減し、中小企業が安心してM&Aを推進できるようになることを目的としています。

以上


[1] https://www.marr.jp/genre/market/MAkaiko/entry/19844

[2] https://www.marr.jp/pr/MAkaiko/entry/26358

[3] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC05DRX0V00C21A8000000/

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