2022.03.29
AI創作物の今と未来
のぞみ総合法律事務所
弁護士 諏訪 公一
1.はじめに
「AI創作物が著作物として保護されるか」という問題点は長らく検討がされていますが、2022年2月14日、アメリカ合衆国著作権局(USCO)がAI創作物の著作権登録を認めないとの判断を再度行いました[1]。今回のニュースレターでは、USCOの判断を簡単にご紹介したいと思います。
2.Steven Thaler博士の試み
今回問題となった作品は、「A Recent Entrance to Paradise」という平面の絵(以下「本作品」といいます。)です。本作品は、機械上で動作するアルゴリズムによって自律的に創作されたもの、つまりAIが、人間の手を使わず自動的に創作したものと説明されています。
“A Recent Entrance to Paradise” by Creativity Machine/ Steven Thaler[2]
2018年11月3日、Thaler博士が行った著作権登録申請の際、本作品の著作者は「Creativity Machine」であり、Thaler博士はこのCreativity Machineの所有者であること、また、今回の登録は「Creativity Machine」の所有者が「Work-for-hire(職務著作)」として登録申請を行っている旨も記載されていました。
この申請に対し、2019年8月12日に1度目の登録拒絶がなされています。その理由は、本作品には、著作権で保護されるために必要な「人間が著作者であること(human authorship)」の要素が欠けている、というものでした。
この1度目の拒絶に対し、2019年9月23日、Thaler博士は、人間の創作性を登録要件にすることは憲法違反であるとしてUSCOに再考を求めています。しかし、2020年3月30日、USCOは2度目の拒絶をしました。その理由は、本作品について人間が十分な創作の入力や介入を行った証拠がなく、また、人間の著作者によって創作されたときのみ著作権の保護があるとすることについては長年取られてきた解釈であるとしたためです。この2度目の拒絶に対し、2020年5月27日、Thaler博士は、連邦規則に基づき、改めて再考を求める申し立てを行いました。
3.“再考”の結果
アメリカ著作権法102条a項の著作物の定義では、”original works of authorship”(著作者の創作的な作品)に著作権が発生すると定められています。この解釈について、米国の裁判例においては、著作物として保護されるためには人間の内心と表現活動の繋がりが必要とされており、また、人間が行ったものではない創作物については一貫して著作物性を否定してきたことをUSCOは指摘しています。たとえば、近時、アメリカで話題になった判決の一つに、猿が自撮りを行った写真の著作物性が争われた事件がありましたが、この事件でも、著作権法は人間の創作性を前提としているとして、著作物性を認めませんでした[3]。さらに、連邦機関の研究結果やアメリカ合衆国特許商標庁の解釈においても、人間の創作性が前提にされています。
なお、Thaler博士は、本作品はWork-for-hireであるとも主張しておりますが、AIはWork-for-hireとなるために必要な「契約」を締結することができない上、Work-for-hireの論点は著作者の特定に関することであり、著作物性の議論とは異なると指摘しています。
以上から、USCOは本作品の著作権登録を拒絶した判断は妥当であったとしました。
4.日本への示唆
日本法では、著作物とは「思想又は感情」を「創作的に表現したもの」であると定められています(著作権法2条1項)。上記のアメリカの議論と同様、日本法でも、人間が創作行為を行うことが前提と考えられております[4]。もちろん、パソコンで文章を書く、カメラで写真を撮影するなど、機械を道具として人が著作物を創作したならば著作権が認められますが、人が機械を「道具」として著作物を創作したというためには、主に人間による「創作意図」と「創作的寄与」が必要とされています[5]。もし、AIが自動的に作品を創作したとすれば、そのシステムの所有者は、その作品の「創作意図」も「創作的寄与」もなく、著作権の保護はされないと考えられます。本作品はAIが自動的に創作したものとされておりますので、現時点では、本作品の著作権が日本で認められる可能性は低いでしょう。
一方で、AI創作物を著作権で保護しない場合のデメリットも指摘されています。たとえば、①AI創作物が保護されないため、AIシステム開発への投資が保護されなくなり、またAIシステムの利活用が進まないのではないか、②無許可で利用できるAI創作物ばかりが多く使われる結果、人が創作物を生み出すインセンティブが減ってしまうのではないか、③人間の創作物と同じレベルの著作物が人間の創作物であると僭称されてしまうため、僭称を防ぐためにAI創作物に著作物性を認めるべきではないか(「僭称コンテンツ問題」[6])、などの点が挙げられています。本作品を見ていただければおわかりになる通り、すでに、AI創作物は人間の創作物と同等のところまで近づいており、上記の問題点が顕在化する可能性も以前より更に高くなってきているようにも考えられます。
この解決策として、AI創作物を著作権等で保護するよう法改正や立法を行うことも可能です。実際、イギリスのように、AI創作物に著作権の保護を設けている国もあります[7]。もちろん、AI創作物に権利を付与することの問題点も十分検討する必要がありますが[8]、日本でも、著作権や著作隣接権での保護の可能性の検討、新たな登録制度や権利の創設などを含め、将来的に立法でAI創作物に何らかの権利が与えられることもあるかもしれません。
以上
[1] Copyright Review Board “Second Request for Reconsideration for Refusal to Register A Recent Entrance to Paradise (Correspondence ID 1-3ZPC6C3; SR # 1-7100387071)” https://www.copyright.gov/rulings-filings/review-board/docs/a-recent-entrance-to-paradise.pdf
[2] Copyright Review Board・前掲注1)1頁
[3] Naruto v. Slater, 888 F.3d 418 (9th Cir. 2018)
[4] 中山信弘『著作権法』(有斐閣、第3版、2020)78頁
[5] 「文化庁著作権審議会第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書」第3章Ⅰ 1.(3)(1993年)
[6] 奥邨弘司『人工知能が生み出したコンテンツと著作権〜著作物性を中心に〜』パテント70巻2号(2017)15頁
[7] イギリスのCopyright, Designs and Patent Act 1988では、「コンピュータ生成物」とは、人間の著作者がいない状況でコンピュータによって生成された作品をいうと定義されており(Section 178)、著作物が「コンピュータ生成物」である場合には、生成後50年保護されると規定されています(Section 12 (7))。
[8] たとえば、知的財産戦略本部「次世代知財システム検討委員会報告書~デジタル・ネットワーク化に対応する次世代知財システム構築に向けて~」(2016)24頁では、現在の著作権は無方式で成立しかつ長期間の保護されてしまうことから、AI創作物全体に著作権を認めるのは過剰保護となる懸念があると述べられています。