2022.06.03
育児介護休業法の改正(令和4年4月1日以降施行)について
のぞみ総合法律事務所
弁護士 大畑 駿介
1.はじめに
令和3年6月3日に、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律」が成立し、令和4年4月1日以降、段階的に改正育児介護休業法(以下「改正法」といいます。)が施行されています。
本稿では、改正法の概要とこれによって事業主に求められる対応について概説します。
2.改正法の要点
改正法は、令和4年4月1日、同年10月1日及び令和5年4月1日に段階的に施行されます。
それぞれの施行内容の大きなテーマは次のとおりです。
以下、それぞれについて詳述します。
3.育児休業等の取得促進に向けた雇用環境整備や取得要件の緩和(令和4年4月1日施行)
(1)雇用環境の整備及び雇用管理等に関する措置
改正法では、事業主において、①育児休業に係る研修の実施、②育児休業に関する相談体制の整備、③雇用労働者の育児休業に関する事例の収集と労働者に対する当該事例の提供及び④育児休業制度・取得促進に関する方針の周知のうち、いずれかの措置を講じなければならないとされました(改正法第22条第1項及び改正法施行規則第71条の2)。
(2)労働者に対する育児休業制度に関する個別周知・意向確認
また、改正法では、事業主において、妊娠・出産の申出をした労働者に対して、①育児休業に関する制度、②育児休業申出の申出先、③雇用保険法に規定される育児休業給付に関する内容及び④育児休業期間に負担すべき社会保険料の取扱いについて知らせた上で、労働者から、育児休業申出に係る意向を確認しなければならないとされました(改正法第21条第1項及び改正法施行規則第69条の3第1項)。
なお、(1)④の周知や(2)の意向確認の方法は、原則として面談(オンライン面談も可能)もしくは書面交付によって行うこととされています(改正法施行規則第69条の3第2項、第69条の4第1項。ただし、労働者が希望する場合には、ファックスや電子メールによることも可能)。
(3)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
旧法下では、有期雇用労働者について、引き続き雇用された期間が1年以上であることが育児・介護休業の取得要件とされていましたが、改正法では、かかる要件が撤廃されました(改正法第5条第1項ただし書、第11条第1項ただし書参照)。
もっとも、労使協定を締結することで、旧法下と同様、引き続き雇用された期間が1年未満の有期雇用労働者を育児・介護休業の取得対象者から除外することが可能とされています(改正法第6条第1項ただし書、第12条第2項)。
(4)事業主に求められる対応
上記(1)及び(2)に関しては、各事業主の規模や内情に応じ、労働者に対して必要な周知及び意向確認を実施する必要があります。
また、上記(3)に関しては、育児・介護休業の取得要件に関する就業規則の定めを、改正後の内容に沿う形に改訂することが求められます。なお、上述したとおり、改正法下でも、労使協定によって、引き続き雇用された期間が1年未満の有期雇用労働者を育児休業の取得対象者から除外することは可能ですが、旧法下で定めた労使協定において、この旨を規定していたとしても、改めて改正法第6条第1項ただし書に基づき、当該申出を拒む旨規定した労使協定を締結する必要があるとされているため、注意が必要です[1]。
4.夫婦交代での育児休業取得を可能にする産後パパ育休制度の創設等(令和4年10月1日施行)
(1)産後パパ育休制度の創設
改正法では、従来の育児休業とは別に、労働者が、子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日までの間に、4週間以内の期間を定めて出生時育児休業(=産後パパ育休)を取得することができるものとされました(改正法第9条の2第1項)。
なお、労働基準法第65条第2項は「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない」と規定するため、今回の改正法は、男性の育児休業を想定した内容となっています。また、旧法下では、子の出生後8週間以内に父が育児休業を取得した場合に、再度の育児休業取得を認めるいわゆる「パパ休暇」制度が存在していましたが、今回の法改正に伴い廃止されます。
(2)育児休業の分割取得
旧法下では、原則として育児休業の分割取得が認められていませんでしたが、改正法ではこれが認められることとなりました(改正法第5条第2項参照)。
参考までに、産後パパ育休及び育児休業の概要を以下のとおり整理します。
(3)事業主に求められる対応
上記(1)及び(2)を踏まえ、育児休業に関する就業規則の定めを改正法の内容に沿う形に改訂する必要があります。
なお、上記(1)及び(2)の法改正は、父母交代による育児休業の取得を企図するものであり、事業主においては、この点に関する理解を深めることが望まれます[2]。
5.(男性の)育児休業の取得促進に向けた育児休業取得状況の公表の義務化(令和5年4月1日施行)
改正法では、常時雇用する労働者の数が1000人を超える事業主において、毎年少なくとも1回、男性の育児休業等の取得率又は男性の育児休業等・育児目的休暇の取得率を公表することが義務化されました(改正法第22条の2、改正法施行規則第71条の4)。
6.まとめ
上記のとおり、育児介護休業法の改正に伴い、事業主においては、段階的に就業規則の変更等、必要な措置を講じる必要がありますので、各改正内容に関する理解を深めることが求められます。
以 上