2022.09.28

短い文の著作物性〜画像生成AIの呪文から考える〜

のぞみ総合法律事務所
弁護士 諏訪 公一

1.はじめに

 以前、本ニュースレターでAIが生成した画像の著作物性に関するアメリカ合衆国著作権局(USCO)の判断を紹介しましたが(https://www.nozomisogo.gr.jp/newsletter/8258)、近時、DALL·E 2、Midjourney、Stable Diffusionなど画像生成を行うAIが特に話題となっています。また、mimicという日本のサービスにおいて、AIに対して絵師の絵画を提供することの是非が話題となっています。
 画像生成AIの主な問題点としては、①AIデータベースに著作物を収集・提供することができるか、収集・提供を著作権者は拒否することができるのか、②ユーザーが入力する「呪文」が著作物として保護されうるのか、③生成されたAI創作物は著作物となりうるのか、などの点があります。このうち、①や③は近時さかんに議論されておりますので、今回は、純粋な著作権法の問題として従来からとても興味深い問題があるものの、画像生成AIとの関連ではあまり語られない②について考えてみたいと思います。

 

2.Midjourneyで絵を生成する方法について

 まずは、Midjourneyでどのように絵を生成するかについてご説明したいと思います。現在はDiscord内で提供されていますが、Midjourneyのルーム上のチャットのBoxに、/imagineと入力すると、Promptを入力する項目が出てきます。そこに、どのような絵をAIに生成してもらいたいかを英語で入力します。このPromptには、なるべく具体的に入れることがコツであり、文章を作って入力する人もいますが、私は全くもっての初心者ですので、端的に私が書いて欲しい絵を単語で並べただけの、以下のようなAIへの指示の言葉、いわゆる「呪文」を入力しました。

 “hope, big ship in the sky towards the sun, people on the ship, clear blue sky, calm and clear sea like okinawa islands, realistic, cheerful, happy”
 (英訳:のぞみ、太陽に向かって進む空に浮かぶ大きな船、船に人々がいる、沖縄の島のように静かで綺麗な海、写実的、陽気、幸福)

 Midjourneyは、最初に絵を4枚生成したのち、そのうちの一つの構図に似たような絵を再度生成することや、再度作り直してもらうこともできます。

(Discord上のMidjourneyを利用して筆者が上記パラメータを入力して生成。なお、画像生成自体は無料版でも可能ですが、今回は有料版にて生成しています。)

AIは上記の絵を提供してくれましたが、イメージが異なることから何回か作り直しました。
その上で、イメージに近い絵からさらに再度4バージョン作成をしてもらいました。

(Discord上のMidjourneyを利用して筆者が上記パラメータを入力し、何度かAIに生成し直してもらった上で、最もイメージに近い画像から、さらにバージョンを4つ生成した画像)

最終的に、右上の絵を選択して、高画質の絵を生成しました。
(本当は空を飛ぶ船にしたかったのですが選択する文言がよくなかったようで、そこは無視されてしまいました)。

(Discord上のMidjourney上で、上記4つの写真のうち、右上の写真を高画像出力)

 

3.著作物性の基準

 まず、「呪文」が著作物となりうるかを理解するには、どのようなものに著作物性が認められるか、ということを理解しておく必要がありそうです。
 著作物と認められるためには、①「思想又は感情」を②「創作的に」③「表現」したものであって、④「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定められています(著作権法2条1項1号)。この定義からもわかるように、法律では、著作物として認められる最低限必要とされる文字数というものが決まっているわけではなく、その表現に創作性があるのか、思想又は感情を表現したものであるか、といった観点から検討されることになります。
 この定義の内容について、ある判例では、①文章が比較的短く、表現方法に創意工夫をする余地がないもの、②ただ単に事実を説明、紹介したものであって、他の表現が想定できないもの、③具体的な表現が極めてありふれたものについては創作性が否定される、と説明しています(ホテル・ジャンキーズ事件:東京地判平成14年4月15日判時1792号129頁)。

 では、具体的に、どのような文章で著作権が争われたか、実際の事例で考えてみましょう。短いもので著作物性が認められたものにつき、「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」という五(六?)七五の交通標語に著作物性があるとされました(交通標語事件:東京高判平成13年10月30日判時1773号127頁)。一方、「ある日突然、英語が口から飛び出した!」といった20文字のキャッチフレーズには、著作物性はないとされています(スピードラーニング事件:知財高判平成27年11月10日裁判所ホームページ)。
 また、長いものであれば著作物性が認められるというものでもありません。雑誌休刊の挨拶については、休刊・廃刊の際の挨拶の性格から、休刊・廃刊の告知、読者への感謝、再発行予定の表明、関連雑誌を引き続き愛読してほしい旨の要望等が含まれるのは当然であることから、このような「ありふれた表現」のものについては著作物性を認められないと判断しています。その上で、200文字を超える挨拶文について著作物性を否定したものがあります(ラストメッセージin最終号事件:東京地判平成7年12月18日判タ916号206頁)。

 以上のとおり、交通標語のような短い文章で著作物性が認められる一方で、五七五以上の長い文章なら当然に著作物性が認められるというわけでもなさそうです。

 

4.「呪文」には著作権があるのか?

 そもそも、「呪文」と一口にいってもさまざまな種類のものがあります。単語を数個だけ入れた場合、例えば、「のぞみ、船、海」のようなものの場合には、著作物性が認められる可能性はほぼないと思われます。一方で、一般的に小説のようなものは著作権が認められると考えられます。川端康成氏の『雪国』の冒頭の文章である「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」という3つの文章全体を呪文とした場合は、その文言には著作物性があると考えられます。例えば私が、呪文として「海は青く、透き通っていた。それはまるで私が沖縄に住んでいた時によく行った西表島のような海であった。そこで太陽に向かって進んでいく、楽しそうな人々を乗せた大きな船を眺めていた僕は、幸せな気持ちになった。」などといった、小説のような文章を入力した場合には、その呪文には著作物性が認められる可能性は高いと考えられます。

 では、私が呪文として入れた「のぞみ、太陽に向かって進む空に浮かぶ大きな船、船に人々がいる、沖縄の島のように静かで綺麗な海、写実的、陽気、幸福」といった少し長めの単語の羅列の呪文はどうでしょうか。
 結論から言いますと、今回の呪文は、著作物性があるかどうかを断言できない、ちょうど微妙なラインのように思われます。

 私がこの用語を選んだ創作過程を考えると、頭の中にある、あまり具体的ではないぼんやりとした絵画のアイディアを言葉に表現したものになります。もし、これを保護してしまうとアイディアそのものを保護してしまうことになりかねないようにも思われます。また、選んだ文言ひとつひとつはそれぞれ事実を写実的に表現したものであり、その点から、この呪文に著作物性はないと考えることもできそうです。さらに、このような用語の羅列に著作権を認めた場合には、私に独占権が認められますので、その結果、その後の創作者の自由を奪い、表現の多様化を阻害する可能性があることも配慮する必要がありそうです。この点を重視すると、著作物性は認められない方向に傾くと考えられます。
 一方で、私は今までにない絵を(自分では書けませんが、AIを使って)描いてみようとしたものであり、その絵を具体的な自分の言葉で「表現」したものであること、今回の呪文は、数語のまとまりではなく、ある程度、今回で言えば7つの言葉のまとまりとなっていること、その中には文章になっているものも含まれることから、そこに私の思想・感情が表れているとも言えそうです。この点を重視すると、著作物性は肯定される方向に傾くと考えられます。

 今回のような著作物性の判定が微妙な場合、判例においては、ラストメッセージin最終号事件のように著作物性を厳しめに判断することにより著作物性を否定するか、あるいは、交通標語事件判決のように、著作物性を認めるもののその著作権の範囲は狭いものとするか、といった2つのパターンがあるといわれています。そのどちらの方向に傾くかでも、著作物となるかの判断が分かれることになりそうです。
 なお、後者について少し説明をしますと、仮に後者の考え方でこの呪文に著作物性が認められたとしても、著作権の及ぶ範囲は「いわゆるデッドコピーの類の使用を禁止するだけにとどまる」権利しか認められないもの(いわゆるThin copyright)になる可能性が高いと考えられます。たとえば、上記交通標語事件判決では、「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」に著作権を認めましたが、「ママの胸より チャイルドシート」は、「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」にある著作権の侵害を認めませんでした。このように、私の呪文が仮に著作物であると認められたとしても、同判決のようにデッドコピー程度のものしか保護されない場合には、誰かが私の呪文を参考にした上で、数語だけ類似している呪文を入力したケースであっても、私の呪文の権利は及ばない、ということになるかもしれません。
 なお、再度、念のためですが、この議論は、どのような呪文を入れるかによりますので、呪文一般がデッドコピーとしての権利しか認められない、というわけではないことにご注意ください。

 

5. まとめ

 以上、その言葉に著作権があるのかという、とてもストレートな問いではありますが、表現の仕方だけで結論が異なりますし、かなり深い問いであることがおわかりいただけたかと思います。

 また、もし仮に呪文に著作権がある場合には、新たな別の問題点が発生し得ます。たとえば、その呪文から生成された画像は、呪文を入力したユーザーの二次的著作物(翻案物)としての権利が及ぶのか、といった問題です(なお、これは、たまたま出来上がったAI生成物(AI創作物)に対し、AIが学習した誰かの著作物の著作権が及ぶのか、という論点とは別の問題となります)。二次的著作物となるかは、「依拠性」+「表現上の本質的な特徴を直接感得しうるか」という点が従来の基準です(江差追分事件:最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁)。例えば、先ほどの私の呪文でも、正直な話、個人的には、船に空を飛んで欲しかったのですが、AIが生成した最終的な絵では「空飛ぶ船」要素は度外視しています。また、「船に人々がいる」ことも表現されていないので、仮に私の呪文に著作物性があったとしても、呪文からこの画像が直接感得できるのか、という点は問題になりそうです。また、呪文がほぼデッドコピーしか認められない程度の著作物性しかない場合には、二次著作物にまで権利が及ぶのか、という点も考えなければならないように思われます。さらにいえば、AI生成物(AI創作物)はAIが生成しているのでそもそも二次著作物にはならないのではという問題もありそうです。このように、画像生成AIは、そこから生じる新しい法的問題点だけではなく、従前の著作権法の様々な概念も再考させるインパクトを持つもののようにも考えられます。

 AI生成物(AI創作物)と著作権の関連も、従来、「AI生成物(AI創作物)は、人の創作が含まれていないから著作権は及ばない」といわれてきましたが、Midjourneyでは、ユーザーは、実際に絵を生成する際、試行錯誤しながらAIに指示を出す呪文を検討し、AIがいくつかの絵のオプションを提示した後、ユーザーがそのオプションの中から自分のイメージに最も近いものを選択した上で、最終的な絵が完成するケースが多いのではないかと思われます。また、mimicのように、ユーザーが生成するためのパラメータとなるべき画像を選んでアップロードしAIに画像を生成してもらうものなどがあり、「AI生成物(AI創作物)」といっても、さまざまな種類のものがあります。このように、具体的にAIがどのように画像を生成するか、またそれに人がどのように関与するのかといった過程が、より明らかになってきたこともあり、今後、AIを道具として絵を創作した場合とAIが自動的に絵を創作した場合の振り分けや、呪文との関連性など、より詳細にAI生成物(AI創作物)と著作権の議論が深化していくことが期待されます。

以 上

                              

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